研究課題
若手研究(B)
本研究はセルロースをキーマテリアルとしたナノ構造体の創出に関する研究に世界に先駆けて取り組み、主に光応答性機能性材料への応用展開につながる研究を行う。本年度は、まずパイ電子系分子導入セルロース誘導体のモデル研究に取り掛かり、その分子構造に起因する物理的・化学的特性を明らかにした。すなわち、3量体セロオリゴ糖の6, 6''位にポルフィリン基、還元・非還元末端にメチル基、他の水酸基にベンジル基が導入されたモデル化合物を新規に合成し、その光学特性を検討した。2つの発色団(ポルフィリン分子)はセロトリオースの不斉炭素に直接結合していないのにも関わらず正のCotton bandを示したころから、溶液中で右巻きらせん構造が最も安定に存在することが判明した。この結果を受け、隣り合った無水グルコース単位の6位に導入されると左巻きらせん構造を示す大きなCDバンドが現れ、一つおきに交互に導入されると右巻きらせん構造を示す小さなCDバンドが現れることを推測した。本研究により、セルロース鎖にパイ電子系分子を組み込むことで、パイ電子系分子のらせん配列を制御し得ることを初めて提唱した。次に、2,3位アセチル基(DS≒2)、6位クロロフィル基(DS≒0.07)修飾セルロース誘導体を界面場で集積させることで、世界で初めてセルロースナノロッド構造体を見出した。この分子は6位が僅かにしか修飾されていないため、水素結合は6位残存水酸基のみで形成されると予想できる。本研究により、位置選択的誘導体化により水素結合部位を限定(この場合は6位残存水酸基のみ)し、かつ界面場で分子間水素結合のベクトル性を2次元面内に制限することで自己組織化を制御し得ることを示した。
2: おおむね順調に進展している
本研究はセルロースナノ構造体の創出に関する研究から、主に光応答性機能性材料への応用展開につながる研究を行う。ナノ構造体創出のために、2つのアプローチを提案している。すなわち、1)高位置選択的セルロース誘導体の自己組織化によるナノ構造体の創製と、2)既存のセルロースナノ材料への濃厚ポリマーブラシの表面修飾、である。前者については、誘導体の化学構造を適切に選択し、かつ製膜条件を注意深く検討することで、形状の比較的そろったナノロッド構造の作製に成功した。一方後者については、セルロースナノ材料への濃厚ポリマーブラシ修飾にすでに成功している。今後の課題は光応答性機能材料への応用展開であるが、そのためのナノ材料は揃ったため初年度としては研究はおおむね順調に進展していると判断した。
自己組織化により得られるパイ電子系分子含有セルロースナノ構造体の光学特性をUV・蛍光スペクトルにより解析し、バルク状態の特性と比較検討する。これら測定結果を考察し、分子設計にフィードバックすることで、量子サイズによる光学特性が顕著なナノ構造体の獲得を目指す。さらには、偏光分光測定による機能性分子団の配向解析や表面電気化学測定によるレドックス解析等を遂行し、ナノ構造体に束縛された機能性分子団の配向や電子状態を考察する。一方、濃厚ポリマーブラシ付与セルロースナノ材料を階層構造化することで、配向性を有する光学薄膜材料を作製する。具体的には、付与するポリマーブラシの分子量を制御することでアスペクト比を精密に制御するとともに、セルロース鎖のキラリティーに基づくキラルネマチック配向薄膜を作製し、セルロースならではの特徴を有する光学材料へと進展していく。
研究遂行に必要な合成設備、分析機器などは十分に整っている。ゆえに、経費の主要な用途は、有機合成に必要な試薬・ガラス器具と測定に必要な基板等の消耗品である。また、成果発表のために必要な出張経費と、現有の装置メンテナンス費および研究施設の共用設備使用料(NMR、MS、元素分析等)等に用いる。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 1件)
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