研究課題/領域番号 |
24750221
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西原 正通 九州大学, 学内共同利用施設等, 助教 (40415972)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 相互侵入高分子網目構造 / 電荷移動錯体 / 超分子構造 / 高分子電解質膜 / 架橋 / ポリイミド |
研究概要 |
平成24年度は、電子供与性(ドナー)分子と電子受容性(アクセプター)ポリイミドをDMSO溶液中で混合し、膜化することにより、ドナーとアクセプターが交互に重なりあったCT錯体複合体を形成させた。この超分子複合構造を形成させる過程で、ドナー分子間を種々の官能基を有するスペーサーで重合させ、疑似セミ相互侵入高分子網目 (Pseudo-semi-IPN) 構造の構築を行った。このPseudo-semi-IPNは、一般的なsemi-IPNのように化学的架橋点を持った高分子網目構造とは異なり、Pseudo-semi-IPNは物理的な架橋点であるCT錯体を有する高分子網目構造である。この網目構造はこれまでに報告例がなく、その構造の構築と帰属が非常に重要となる。 平成24年度は、CT錯体複合膜の作製条件を応用しPseudo-semi-IPN複合膜の作製を行った。ポリイミドとしてアクセプター性を持つナフタレンジイミド骨格を有し、溶媒への溶解性が高く、高分子電解質膜として一般的に用いられているスルホン化ポリイミドを用い、ドナー分子としてジヒドロキシナフタレンを用いた。このドナー分子をつなぐスペーサーとして、ドナー間距離に適した炭素鎖が6のヘキサメチレンジイソシアネート、アジピン酸クロリドを用いた。イソシアネートを用いた場合、福薄うの反応が進行するため、複数の結合状態を有する分子構造体が得られた。これに対してクロリドを用いた場合は、ヒドロキシル基との反応の進行によるエステル基のピークをFT-IRから確認できていない。しかしながら、CT膜で見られるドナー分子に由来するピークが消失していることから、クロリドとドナー分子が反応した可能性は示唆されている。現在、比較試料としてポリエステルを作製し、CT錯体形成もしくは分子内水素結合によるIRピークシフトの影響を評価している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本提案の目的として、以下の3つのテーマを挙げている。1.Pseudo-semi-IPN複合膜の作製、2.CT錯体が複合膜機能に与える影響の解明、3.高分子材料に応用可能な普遍的技術を提案。平成24年度はテーマ1と2に相当するCT錯体複合膜とPseudo-semi-IPN複合膜の作製に取り組んだ。 IPN複合膜の作製では、アクセプター性を有するナフタレンジイミド骨格を持ち、溶媒への溶解性が高い高分子電解質膜であるスルホン化ポリイミドを用い、ドナー分子としてジヒドロキシナフタレンを用いた。このドナー分子をつなぐスペーサーとして、炭素鎖が6のヘキサメチレンジイソシアネート、アジピン酸クロリドを用いた。 イソシアネートは、ドナー分子のヒドロキシル基だけでなくスルホン酸とも反応したため、膜内に複数の結合状態を有する複雑な架橋構造体が得られた。これに対して、クロリドを用いた場合は、イソシアネートのようにスルホン酸とは反応しておらず、可視スペクトルの結果も重合前のCT膜と比べ長波長側に吸収がシフトした。この結果から、重合反応によりCT膜から異なる分子パッキング状態になっていることが示唆される。また、CT膜でIRスペクトル中に見られるドナー由来のピーク(1604、1513cm-1)が消失していることから、クロリドとドナー分子が反応した可能性は示唆されている。ただ、反応の進行によるエステル基のピークをIRから確認できていない。現在、重合反応により、IRのピークがシフトしたことも考慮しその構造の帰属を行っている。また、比較試料としてドナーとクロリドによるポリエステルを作製し、ポリマーブレンドによるIRピークシフトの評価を試みている。 CT錯体およびIPN形成による膜機能の影響は、少なくとも光学的な物性で明確に出ている。今後、機械物性と構造も考察し、膜機能の評価を進める。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、IPN膜の作製を複数のスペーサーを用いて試み、膜として回収できる状態にある。今後は、現状不十分であるIRによる構造の帰属、IPN膜が示す各種部性(弾性率、伸び率、耐熱性、耐溶解性など)の評価を行う。構造の帰属と機能の評価を組み合わせ、構造と機能の関係をより詳細に評価する。これらの結果を踏まえ、スペーサーやドナー分子の組成比を調整することで機能のコントロールを試みる。 さらに、IPN膜研究を拡張するため、IPN作製反応を行う溶液の濃度、その後の乾燥速度の影響、ドナー性が異なるナフタレン誘導体によるIPN複合膜の作製なども進める。また、必要に応じて目的に応じて最適な構造を有するドナー分子の合成も行う。これらの研究を進める上で考えられるのが、重合中に相分離などが起こるケースである。このような場合にもCT錯体構造を維持し、重合が進行している場合であれば、均一な膜による材料作製による物性評価に加えて、学術的な観点から相分離をおこした新たな複合体として評価を行う。 さらに今後の展開を踏まえ、ポリイミド以外のポリマーやドナー分子、スペーサーを用いたケースも試み、一般性のある高分子改質法の開発に向けて研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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