研究課題/領域番号 |
24760014
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
家形 諭 九州大学, 学内共同利用施設等, その他 (00585929)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 磁性 / 磁気渦 / 層間交換結合 / スピントルクオシレータ |
研究概要 |
本研究は、高いQ値と優れた熱安定性を有する超低消費電力なナノスピントルク発信器の開発を目的として行った。より具体的には、円盤状強磁性体において安定化する磁気渦構造の優れた磁気共鳴特性に申請者のシーズ技術である層間交換結合を用いた熱安定性の増大技術を組み合わせ、高性能なスピンオシレーターを実現することをねらいとした。磁気渦構造は、高いQ値の安定した発振を可能にし、層間交換結合膜に形成される磁気渦では、熱安定性が飛躍的に向上し、発振周波数の増大をも可能とする。本研究により実現されるスピンオシレータは、3次元実装における無線通信素子としても利用可能なだけでなく、万能なマイクロ波素子として、様々なナノエレクトロニクスデバイスの高性能化に貢献することが可能である。 本研究はおおまかに特殊な磁区構造である磁気渦構造および層間交換結合の2つのキーテクノロジーで構成される。今年度は安定した磁区構造を形成し、発振素子作成、および発振機能発現に成功した。 作成した磁気渦素子の発振部はPy/Cu/Pyの三層構造で構成され、膜面垂直方向にバイアス電流を流すことにより、スピンの励起、発振を実現した。発振によって得られる交流信号はバイアスティーを介して取り出し、スペクトルアナライザを用いて発振スペクトルを観測した。得られた発振スペクトルは面内に印加された外部磁界および電流に依存して、スペクトル形状、発振周波数を変化させ、バイアス電流の増加に伴い周波数が増加する、磁気渦特有の周波数の電流依存性を示した。得られた周波数は最大で3GHzと高い周波数を実現し、また線幅⊿fはおよそ3MHzと非常に急峻なスペクトルを得ることに成功した。本結果は磁気渦の有する高い熱安定性およい高いQ値を実験的に示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は磁気渦構造と層間結合の2つのキーテクノロジーを組み合わせて、高い熱安定性、高いQ値を有するスピントルク発振素子を実現することである。本年度はすでに磁気渦構造を利用した高い周波数、高いQ値を有するスピントルク発振素子を作成し、実証することに成功している。そのため現在までの達成度を「当初の計画以上に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究達成に向けた大きな課題は2つ、1つは層間交換結合を有する磁気渦構造の形成、もう一つは磁気渦の発振の実現である。研究実績の概要にあるように、本年度は発振部がPy/Cu/Pyで構成される磁気渦素子を作成し、バイアス電流を印加することで、磁気渦の発振素子実現を達成している。今後の研究の推進方策として、磁気渦が層間交換結合した素子を発振部とする素子を作成し、発振スペクトルのさらなる高周波化、高い熱安定性を実現する。より具体的には従来のPyCuPyのCuをRuに置き換え層間結合強度の増大を検証し、さらにPyRuPyRuPyの5層構造にすることにより、層間結合膜を有し、磁気渦構造を有する発振素子を実現する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度に計上した高周波信号増幅器は得られる発振スペクトルが小さいことを予測したものであったが使用したスペクトルアナライザの高機能性および得られた発振スペクトルが予想以上に大きかったため、現在のところ必要性に迫られていない。代わりに、当初の予定よりRuなどの材料消耗が急激になること、それに伴い基板消費量の増大が予想されるため、研究費目をこちらを重点においた内容になると思われる。
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