独自のナノプローバー装置を用いて,いくつかの薄膜・ナノ粒子とナノトンネル接合を作り,磁場をかけながら電気抵抗の変化を測定したところ,数万パーセントにも及ぶ非常に大きな抵抗変化(超巨大磁気抵抗効果)を観測した.このような現象はハードディスク等の性能向上に役立つことが期待されるため,本研究ではこの現象のメカニズム解明を目的として,以下の検討を行った. (1)電場によるナノ構造形成の可能性:電流-電圧特性から試料とプローブ間に形成されるトンネル接合の物理的・化学的性質を調べ,磁気抵抗特性と比較した.磁気抵抗比が大きい点では,トンネル障壁幅は小さく,仕事関数は大きい傾向が見られた.また,プローブ-薄膜間の距離を変化させると,段階的に電流が変化する現象が見られ,何らかの物理的・化学的な変化が生じている可能性が示唆された. (2)新奇スピン依存伝導現象である可能性:スピン‐軌道相互作用の大きさ,スピン偏極率,スピン拡散長といったパラメータを変更して,磁気抵抗効果への影響を調べるため,各種材料からなる薄膜・ナノ粒子の形成技術を開発した.具体的には,立方体形状の鉄ナノ粒子,結晶構造を制御した鉄-白金合金薄膜,半導体上に形成したマグネタイト・エピタキシャル薄膜等である. (3)装置自体の変形である可能性:磁場印加によるナノプローバー装置自体の変形があるかどうかについて検討するために,従来ステンレス製であった装置本体をアルミニウムや真鍮,チタン等の非磁性金属製に変更した. 観測された超巨大磁気抵抗効果のメカニズムについて,研究期間内には結論は得られなかったものの,性能向上したナノプローバー装置と各種試料を用いて引き続き検討を続ける予定である.
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