研究概要 |
超平坦化処理を施した多結晶金属基板上に、大面積単一ドメインのグラフェン膜が成長できることが我々の研究から示され、そのカーペット状成長プロセスや核発生メカニズムの解析・制御を、低エネルギー電子顕微鏡や超高真空走査型電子顕微鏡その場観察によって検討した。さらに各種多結晶金属基板(Ni, Pt, Co, Pd 等)の炭素固溶度の差を利用して、所望の大面積単一ドメイングラフェンの層数制御を試みた。 超平坦化処理を施した多結晶金属基板中に固溶させた炭素が、基板の加熱温度を制御して表面析出することによってグラフェンが成長する過程を、低エネルギー電子顕微鏡(LEEM)によりその場観察した。これまでの研究では、金属としてグラフェンとの格子整合が良いNiを用いたが、当該年度はPt, Co, Pd を基板に用い、炭素原子の固溶度やグラフェンとの相互作用の強さが、グラフェン成長にどのような影響を及ぼすかを調べた。その結果、金属種によらず、単一ドメインのグラフェンが金属結晶粒界を乗り越えて連続的に成長することが示された。また、炭素の固溶度が高いNi, Co, Pd では室温まで基板を冷却するとグラフェンが多層化する一方、固溶度の低いPtでは室温においても1層の領域が保持され、金属基板への炭素固溶度・固溶量が層数制御の重要なパラメータであることが示された。 また、超平坦化処理を施した多結晶Ni基板上での、走査型電子顕微鏡によるグラフェン成長その場観察から、グラフェン核発生は(111)グレインにおいて生じやすいことが明らかになりつつあり、グラフェン核発生メカニズムの解析・制御への足掛かりとなる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超平坦化処理を施した多結晶Cu基板上に、熱化学気相堆積(CVD)反応炉でグラフェンをCVD成長させた後、グラフェン膜のLEEM観察をした。Cu基板は炭素固溶度が小さく、単層グラフェン被覆により、基板の触媒活性が著しく小さくなる自己停止機能があるので、1層グラフェンがCu基板全域を覆っているが、結晶方位が回転している数μmドメインサイズ集合体の、多結晶グラフェン膜が成長していることが確認された。 当該年度のNi, Pt, Co, Pd, Cu基板上での、表面析出法やCVD法によって成長させたグラフェン膜のLEEM観察から、単結晶グラフェン大面積化の条件が示唆された。 即ち、Cu基板上でのCVD成長の場合、グラフェン成長基板の金属清浄表面は、各結晶面によって差はあるものの、原料炭化水素ガスの脱水素化反応の触媒活性が高く、特に1層目に関しては、炭化水素分子は高確率で基板上で吸着・分解・表面拡散する。その結果、グラフェンの核発生密度が高く、多数の核から結晶方位の異なるドメインが成長・融合して、多結晶グラフェン膜が成長する。特に炭素固溶度の小さいCu基板の場合は、炭素が基板内部に溶解する影響が小さいので、核発生密度が高くなる傾向がある。よって炭素固溶度の小さい金属基板上で、単結晶グラフェン膜の大面積成長の条件として、核発生密度を低くするために、原料炭化水素ガスの供給量を減らして、時間をかけてCVD成長させる等の制御が必要である。 これに対してNi, Pt, Co, Pd基板上での表面析出成長では、炭素が金属基板への溶解・析出を繰り返しながら表面拡散して結晶化し、臨界核サイズを越えたグラフェンドメインのみが成長・拡大でき、臨界核サイズを超えないグラフェンドメインは金属基板に溶解・消失してしまう。その結果、核発生密度は低く、大面積ドメインのグラフェンが成長すると考えられる。
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