研究課題/領域番号 |
24760031
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
神岡 武文 早稲田大学, ナノ理工学研究機構, 次席研究員(研究院講師) (00434332)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 表面・界面物性 / 走査型トンネル顕微鏡 / イオン注入 / プラズマ / 結晶欠陥 / シリサイド |
研究概要 |
【1.Si表面へのNiイオン照射過程のその場STM観察】 Si(111)7x7表面に対するNiイオン照射過程のその場観察に成功した。イオン照射により、原子レベルで平坦なテラス領域に、7x7一層分の深さを有する穴状構造(空孔アイランド)が形成され、また、ステップ端形状が乱雑化することがわかった。とくに、空孔アイランドの周縁部に、Ni関与と考えられる構造が観察された。今後は、この構造の同定のための分析を進める。さらに、イオン照射前後で同一領域を観察し続けらえる「リアルタイム」な観察に段階を進め、シリサイドの核形成・成長の素過程を明らかにする。これまでの成果は、高温保持の試料に対してイオン照射のち、室温に戻して観察する技術を再現性よく確立するところまで達成したことになる。 【2.立体Si構造へのイオン照射】 低エネルギーのイオン衝突により誘起されるSi表面ラフネスをその場で評価する手法を提案および実証した。ラインパターンの形成されたSi(111)基板を試料とし、そのパターンに対して斜めから低エネルギーでイオン照射し、パターンの陰となる領域をその場観察し、イオンが照射された領域とされない領域の境界線を明瞭に観察することに成功した。境界線はラインパターンのエッジ形状を反映すること、非照射領域の幅がイオン入射角度からほぼ説明できることがわかった。今回提案した手法は、イオン照射および非照射領域を同一視野内で観察できるため、ラフネス評価の高精度化につながり、これまでシミュレーションでのみ報告されていた原子レベルで同一な領域の変化を、実験で再現する手法として展開できると考えている。また、現在3次元化の進む実プロセスとの観点から言えば、プラズマダメージの評価、あるいは、シリサイドの核形成のデバイス位置依存性の解明に繋げられると位置づけられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究目的の中核である「金属シリサイドの核形成」に関する研究は、やや遅れている状況である。主たる原因は、実験技術の確立が遅れたことである。他方、並行して進めてきた、ラインパターンなどの立体構造に対するイオン注入過程のその場観察技術に関しては、その提案から実証までできたことで、予想以上に進展したため、先に関連成果として報告した。 Niイオン照射実験に関しては、当初、イオン源の開発・検証において、装置のイオン銃部位の故障の多発のため、実験が予定通り進まなかった点もある。しかし、年度末にかけては、照射したNiイオンが直接関与する構造の観察や、それらの核形成位置と空孔アイランドとの相関が観察されるようになってきており、実験の再現性も高まっている。したがって、このまま研究を進めていけばよいものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
Ni照射過程のその場観察に関して、Ni関与の構造が再現性よく観察され始めてきているので、次段階として、これらの構造を同定する分析を併せて進める。また、基板の種類や、Niイオンを照射する前に打ち込むプリアモルファス化の実験に展開させ、シリサイドの核形成の違いに関する知見を得る方針である。なお、Niのシリサイドの核形成位置は、イオン注入欠陥と深い相関があると考えられるが、本装置では、基板内部の情報は間接的にしかわからない。そこで、基板内部の情報に関して、早稲田大学の分析・観察装置だけでなく、代表者が今年度から在籍する豊田工業大学の種々の分析装置も使って、欠陥や結合のエネルギーに関する情報を評価することも予定している。さいごに、先に確立した、立体構造へのイオン照射過程の観察技術と合せることで、平面型試料と3次元型試料におけるシリサイド核形成の違いを明らかにする方針である。
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次年度の研究費の使用計画 |
試料作製や分析のための、豊田工業大学や早稲田大学での共用施設利用費、材料、薬品およびガス等を含めた使用実験器具費や、イオン銃/走査型トンネル顕微鏡複合装置の各種消耗品の費用に充てる。なお、本装置は早稲田大学に設置されているため、装置利用や議論のための出張旅費も支出する。今後、大量の画像が取得されることが想定されるため、画像解析を円滑に処理するためのシステムを備えたハード・ソフトウェアを導入する。また、成果発表のため、国内・国際学会出張費、論文投稿費を計上する。その他、国内外への学会発表のための旅費、誌上論文発表するための費用に使用する。なお、単独で研究費の多くを占める用途は予定していない。
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