研究課題/領域番号 |
24760038
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
渡邉 恵理子 電気通信大学, 先端領域教育研究センター, 助教 (20424765)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 光計測 / ホログラフィ / パターン認識 |
研究概要 |
申請者のこれまで構築してきたスキャン型位相計測システムに、スキャンエラー補正と校正デバイスによるキャリブレーションなどを導入し、高精度かつ高ダイナミックレンジ測定が可能な非侵襲・無染色位相計測システムを実現した。これにより、従来の技術(位相像を取得時に位相接続処理を用いた技術)では計測が困難な数nmから3λ程度の光路長変化量を持つ細胞を計測できることを積層培養細胞を用いて実験的に示した。 次に、細胞検査への応用として、正常細胞とがん細胞を対象にして、細胞内の平均光路長変化量(Average Optical Path-length Difference:AOPD)を用いて、識別アルゴリズムを構築した。上位100個のAOPDを用いることで、がん細胞誤受け入れ率(がん細胞を誤って正常細胞として判断してしまうエラーレート率が0%の時、正常細胞誤拒否率(正常細胞を誤ってがん細胞と判断してしまう率)は5%~20%という識別結果を得た。特に転移性乳がんや転移性大腸がんではEpCAMが低い傾向にあることから、これらが識別できることはがん識別において極めて有用である。 さらにすでに臨床応用されつつある、皮膚(線維芽細胞)、軟骨組織(軟骨細胞)および骨髄由来間葉系幹細胞を対象とし、位相情報が細胞機能である増殖活性、II型コラーゲン等の産生との相関があることを確認した。 最後にスキャン型の位相計測システムの調整が複雑性の課題を打破するとして、位相シフト型デジタルホログラフィック顕微鏡の開発を行った。画像再構築の計算手法などを工夫することで、位相変化1波長分のRMS(Root Mean Square)が0.127rad(光路長変化量:12.8 nm)の精度を達成し、空間分解能は、0.98umとなり高空間分解能化を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
マッハツェンダー型干渉計に基づく簡易な光学系に閉ループフィードバック制御に、さらにスキャンエラー補正と校正デバイスによるキャリブレーションを施すことで、数nmから3λ程度の光路長変化という高ダイナミックレンジ測定を可能にした。3λ以上の計測が可能になったため、非侵襲・非接触で、ある程度の無色透明の積層された細胞シートや細胞膜内・外での作用の可視化が可能となった。 これらのスペックは現状開発されている位相計測システムにおいて最も高精度かつ高ダイナミックレンジである。さらにこのシステムの精度のおかげで、従来の位相計測システムでは得られなかったEpCAMの発現量が低いがん細胞でも検出できることが判明した。この結果は工学分野ではなく医療分野においても極めて新しい知見であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、開発した高精度位相計測システムは培養細胞における活性度の判断やがん細胞の識別を定量的に識別するシステムとして有効であることが確認できた。今後、スキャン速度の向上、アライメントの簡易化機構の導入、対象物体の違いを考慮した解析プロセスの自動化を行い、OCTや偏光計測などと組み合わせることで、新たな多次元情報を計測への展開を行っていく。具体的には、 1.「特徴的な要素のみ計測できるようにシステムの最適化・簡素化、識別への検討 2.「新たな多次元情報を計測可能な位相計測システムの構築 3.「バイオ研究者用プロトタイプシステムの設計」を行っていく。 1. 特徴的な要素のみ計測できるシステムの最適化・簡素化、識別への検討:まずは、培養細胞の形と増殖、分化機能(軟骨らしさ)の相関、積層細胞の測定を行う。次に細胞培養の経時的な変化、解像度による特徴抽出、データベース化の検討を行っていく。干渉計測において常に課題にアライメントがある。そこで、位相の特徴のモデル化を工夫し、ロバストなシステムへ向けた特徴抽出データを取得し、光学系にフィードバックすることでアライメントの課題を打破していく。 2.新たな多次元情報を計測可能な位相計測システムへの展開:構築した位相計測システムに加え、新たに厚み情報を付加することで屈折率情報やより高精細な3次元形状を得ることの可能なシステムを検討する。 3. バイオ研究者用プロトタイプシステムの設計:まず、特徴抽出したデータベースを用い、光軸位置合わせが必要な部分を洗い出し、高ロバスト性な特徴フィルタを検討する。特徴抽出した位相特性をシステムに反映し、位相物体をモデル化・データベース化する。最後に識別装置で識別できるかの基礎検証を行い、バイオ研究者が利用できるようなプロトタイプシステムに向けた検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
繰り越した174,113円の利用計画としては、広範囲な高精度計測に向けてより詳細な設計仕様をもとに撮像系部品を2013年7月までに購入する。
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