研究課題/領域番号 |
24760039
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
砂田 哲 金沢大学, 機械工学系, 助教 (10463704)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 2次元微小共振器 / 半導体レーザ / カオス共振器 |
研究概要 |
本研究では,2次元微小共振器レーザの動的特性と共振器形状との関係を解明し,新しい光出力波形制御方法の確立を目的としている.平成24年度における研究成果は以下のとおりである: 1.2次元微小共振器半導体レーザの製作評価及び実験系構築 本研究で使用する2次元微小共振器半導体レーザは,AlGaAs/GaAs屈折率分布型分離閉じ込めヘテロ構造の単一量子井戸エピタキシャルウエハを用いて作製し,熱伝導率のよい窒化アルミニウムに搭載した.また,レーザの発振特性を系統的に評価するために,レンズと光ファイバを用いた光結合系を構築し,ほぼ全てのレーザで,設計通りのレーザ発振を確認することができ,今後の実験へと繋がる成果を得た. 2.共振器形状と発振特性との関係の解明 CW駆動時における2次元微小共振器レーザのスペクトル特性を調べた.その結果,共振器内部の光線軌道がカオスとなる,スタジアム型の共振器や不安定型疑似スタジアム共振器では,発振閾値以上の注入電流領域において,単一波長で発振できることを明らかにした.一方で,カオス性を有しない共振器(安定型疑似スタジアム共振器)では,注入電流値の増加に伴い,多モード発振化する傾向があった.このような傾向は,光とレーザ媒質との非線形相互作用を取り入れたモデル方程式によって再現でき,共振器形状により発振モード数や光出力波形の安定性を制御できることがわかった.これらの結果は空間自由度を有する微小レーザデバイスの安定化に役立つと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,様々な形状の2次元微小共振器半導体レーザにおける発振状態の動的特性と共振器形状との関係の解明,更にその動的特性の制御可能性を検討する.H24年度の研究計画では,(1)2次元微小共振器半導体レーザの評価系の構築及び(2)発振閾値特性の共振器形状依存性の解明の2つを目的とした.(1)に関しては,2次元微小共振器レーザの発振閾値やスペクトル等の基礎特性だけでなく動的特性を評価可能な実験系を構築し,当初の目的を達成した.(2)に関しては,疑似スタジアム型共振器レーザに関して,曲率半径を変化させた場合の発振閾値変化を調べ,曲率半径が大きく不安定型共振器になるほど閾値が増大することを明らかにした.ただし,計画では,オーバル型共振器に対して発振特性評価を行う予定であったが,レーザ光出力パワーが弱いことから,明確な依存性を発見できない可能性があったため,疑似スタジアム共振器を用いた.共振器形状は異なるけれども,当初の目的からズレはなく,2次元微小共振器レーザはうまく理論どおりに製作できていることがわかり,当初の目的を達成したと考えている.さらに,次年度に予定していた,光スペクトルからの発振モード数の共振器形状依存性の解明に取り組み,カオス共振器と非カオス共振器とで発振モード数が異なる傾向にあることを見出し,その目的も達成した.このように本研究は当初の計画以上の進展がある.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通りの以下の2つの評価実験を実施する: 1.モード間競合作用ダイナミクスの解明 カオス共振器レーザに注目して, 発振モード間に生じるモード間競合相互作用のダイナミクスを評価する.本実験では,パルス電流でレーザを駆動する.なおパルス励起は広い電流領域をカバーできるようハイパワのパルス発生器を用いる.パルスの繰り返しは1kHz として,デューティー比を0.01%から99%まで変化させて発振モード数がどのように変化していくかを評価する.これによりμsオーダーでのモード競合選択ダイナミクスの傾向を明らかにする.また比較対象として,非カオス的共振器レーザでも同様の実験を行い,その違いを明らかにする. 2.カオス共振器レーザ発振の動的安定性に関する評価 カオス共振器レーザから得られるダイナミクスを測定し,スペクトルアナライザ等を用いて解析する.また比較のため,非カオス的共振器レーザからの出力波形も測定し,その違いを明らかにする.なお比較は,光雑音強度の評価指数であるRIN(Relative Intensity Noise)評価で行う.また非カオス的共振器レーザでは複雑な不規則ダイナミクスの生成がその不安定化メカニズムも実験的に明らかにする.さらに進展によっては,2次元共振器レーザの複雑ダイナミクスを利用した物理乱数生成器への応用可能性も検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の使用計画では高速光検出器の購入を検討していたが,所望の機能を有する検出器を既に入手できた.しかし,2次元共振器レーザ評価実験系の上面観察系を改良することにより,より効率的に研究の進捗が可能となるため,検出器の費用をその実験系の改良に充てる.具体的には,上面観察系に必要なレンズや治具等の光学部品や機器の購入に充てる.また,当初予定した以上の研究成果が得られているため,成果発表のための旅費としても使用する.
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