本研究は空間分解能が高く,高速制御可能な光パルスのみで(外部磁場なしで)のスピン回転の実現を目的とし,スピン間相互作用を利用したスピン回転の実証及び,光制御によるスピン生成と量子構造の関係解明を行うものである.具体的には半導体量子構造に方向の異なる2つのスピン系を励起し,片方のスピンの有効磁場による他方のスピン回転及び,状態制御を試みた. GaAs/AlGaAs量子井戸中に直線偏光で,電子・正孔スピン重ね合わせ状態を励起しその観測を行った.この時,ほぼ共鳴励起の条件でフォトルミネッセンス(PL)の測定を行うことにより,価電子帯のバンドミキシングに起因するスピン重ね合わせ状態の緩和が起こりにくい状況での観測を行った.偏光時間分解PL測定を行うことにより,直線偏光励起によりスピン重ねあわせ状態が形成されることが確認できた.これは励起方向とは異なる方向にスピンが形成されたことを示し,スピン間相互作用を利用したスピン回転を実現する上で重要な知見を得たことを意味する. 上記の測定は基本的にPL測定であり,バンド端のスピン状態を反映する.一方で,高速スピン回転の時間分解測定においては,ポンプ&プローブ法により非線形効果を利用した時間分解測定を行うため,ポンプ光とプローブ光それぞれが励起するエネルギーにおけるスピン光学遷移の選択則を整理する必要がある.このようなバンド端以外でのスピン状態制御において重要となる,上記スピン重ねあわせ状態の励起エネルギー依存性と量子閉じ込め効果に起因するバンド混合効果の関係を実験及び,理論的に解析を行った.光パルスによるスピン回転実現に必要なスピン重ねあわせ状態形成とその緩和機構に関する重要な知見が得られた.
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