研究概要 |
半導体量子ドットを光励起すると、発光する状態(オン状態)と発光しない状態(オフ状態)の間をランダムに転移する明滅現象が観測される。この現象には多励起子状態やチャージしたドットにおけるオージェ再結合といった多体効果、さらにはトラップ準位を介した非輻射緩和過程が関係していると考えられるがそのメカニズムは未解明である。本研究では、明滅現象を理解するために、単一のコアシェル型量子ドット(CdSe/ZnS、コア径8nm)の発光強度の時間変化を調べた。高い励起光強度下(92W/cm^2)で測定した場合は、オン状態のおよそ半分の発光強度を有する中間状態が現れることがわかった。また、単一ドットの発光スペクトルを観測することによって、この中間状態の発光のピークエネルギーはオン状態よりも10 meV程度低エネルギー側にシフトすることが観測された。これはトリオンの束縛エネルギーと同程度であり、光学的励起によるトリオン形成を示唆していることがわかった。特に、比較的コア径の大きな量子ドットでは、オージェ再結合が抑制され、中間状態が比較的高い発光強度を示すことがわかった。これによって、今回初めてON、OFF、中間状態のブリンキング現象を系統的に調べることができ、従来曖昧にされてきた中間(トリオン)状態とOFF状態の形成過程の違いを明確することができた(N. Yoshikawa, H. Hirori et al., Phys. Rev.B, 2013)。またGaAs/AlGaAs量子井戸においてTHzパルスが誘起する発光閃光強度のTHz強度依存性および時間発展ダイナミクスから、強いTHz電場がAlGaAs層に含まれる大量の束縛準位をイオン化して束縛キャリアを解放することを明らかにした(K. Shinokita, H. Hirori et al., Phys. Rev. Lett., 2013)。
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