研究課題/領域番号 |
24760046
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
余越 伸彦 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90409681)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
平成24年度においては、金属アンテナや共振器構造のような補助系と、量子ドット・分子などのナノスケール物質から成る量子複合系に注目し、その高効率非線形応答の可能性と条件について明らかにした。 まず一辺数十ナノメートル程度の微小金属構造を光に対するアンテナに見立て、その近傍に配置した分子の非線形光学応答に注目した。この系に2光子を入力した際の非線形過程(上方変換過程)の効率を計算する式を導出した。その結果、結合系に高効率に非線形応答を引き起こすためには、アンテナ系と分子の結合エネルギーをある最適値に調整する必要があることが分かった。この結合エネルギーは分子の位置により調節可能であり、得られた結果は実際実験する際の大きな指針となる。またこの最適値はアンテナと分子の量子干渉効果により、よく説明できることも明らかにした。 また半導体2重量子ドットに金属アンテナを接続した系に注目した研究も遂行した。2重量子ドットは、半導体で作った2原子分子(量子ドットが1原子)のようなものであり、ドット間に励起子の移動が可能である。本研究ではこの系に微弱連続光を入射した際の、非線形励起の効率を計算した。その結果、前述の量子干渉効果に加え、2重量子ドット内の別の量子干渉により非線形光学応答をコントロールできることを示した。これは外部電極により2重量子ドットの様々なパラメーターが調節可能であるという特徴を利用したもので、これにより非線形応答の効率化だけでなく、応答のオンオフが簡便にできるようになる可能性がある。 このように、これらの結果は光子数個の微弱光による非線形光学において、今後の実験系や応用の指針について新たな方向性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、金属からなるアンテナを量子ドット・分子に接続した量子結合系を舞台に、光子数個の微弱光レベルで引き起こされる非線形光学応答の高効率化を探索することであった。上記のように、これまで2光子による非線形応答の効率化と、2重量子ドット(2原子分子)の微弱鋼非線形応答の操作可能性について明らかにしてきた。これらの結果は、結合系の様々なパラメーターを調節することにより量子力学的結合を積極的に利用した高効率かの可能性を示したものであり、当初の目的におおむね叶ったものであると考える。また2重量子ドットと金属アンテナ結合系の研究は当初予定になかったが、想定していたものとはまた異なった量子干渉効果の利用可能性を示すものである。現在のところ論文の形で出版できてはいないが、近いうちに投稿し発表を行ないたい。 一方で、具体的なシステム形状を提案するための、入射光子・アンテナ・量子ドットという複数の自由度を自己無撞着に記述するファーマリズムの構築は完成に至っておらず、次年度に引き継ぐ。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は上記の研究をさらに進め、量子複合系の非線形光学応答が光子の担うエネルギーや量子情報に新奇なフローを提供する可能性について研究する。特に量子情報技術においては、光子間の相関(エンタングルメント)や量子ドット間の結合が、情報技術の重要なファクターとなっている。 これらのことを鑑みて、金属アンテナと分子を結合した系について、入力光子に光子間相関を取り入れ、その効果により非線形応答(上方変換)の効率がどのような影響を受けるか明らかにする。その際、光子間の相関については2光子間の位置や周波数に相関がある光子対を想定する。このような光子対の発生効率は近年ますます上がってきており、今後の実験に対して指針を提供できるようにする。 また金属アンテナと分子・量子ドットの結合系では、両者の結合エネルギーは非常に大きくなりうることが知られている。このことは非線形応答の高効率化に有利である一方で、金属アンテナ内での散逸が全体の効率のボトルネックになる危険性も孕む。本年度はこの点を考慮に入れ、非常に大きな結合エネルギー領域(ultrastrong coupling regime)まで理論を拡張し、散逸の影響とその回避可能性について調べる。 最後に前年度達成できなかった、具体的なシステムの形状も含め提案するための、入射光子・アンテナ・量子ドットという複数の自由度を自己無撞着に記述するファーマリズムの構築を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
金属アンテナと2重量子ドットの結合系の非線形光学応答の操作可能性について、5月末に開催される国際会議"14th Conference on Physics of Light-Matter Coupling in Nanostructures(PLMCN)"において発表を行なうため、その参加費と旅費にあてる。また、得られた結果について論文を執筆する際の文献費と掲載費の一部に使用する。
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