研究課題/領域番号 |
24760049
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
神原 大 静岡大学, 電子工学研究所, 特任准教授 (90452490)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | テラヘルツ分光 / DFT / 周期境界条件 |
研究概要 |
本研究は実験的手法・理論的手法を融合的に用いることによって、テラヘルツ振動数領域に表れる振動モードの帰属法を確立することを目的とする。遂行の手順は試料作製、テラヘルツスペクトル測定、DFT振動数計算、の3つの過程に分けられる。初年度である平成24年度は研究体制の整備期間と位置づけ、実験装置や計算クラスタの性能確認・評価を実施することとした。 平成24年7月に上智大学半導体研究所から静岡大学電子工学研究所へと所属が変更したことに伴い、テラヘルツ分光装置の移設を行った。レーザー設置環境を整備し、GaP結晶を用いて差周波によってテラヘルツ波を発生させることにより、広い測定周波数(15-200 cm-1)・高い絶対精度・高い分解能(概ね 10 MHz)・高出力のスペクトルが得られるという特徴を備えた分光装置を、安定して稼働させることが可能となった。一方、分光装置によって得られたテラヘルツスペクトルを理論的に解釈するため、密度汎関数理論(DFT)計算サーバの導入を行った。設置されたサーバには、DFT計算パッケージである CRYSTAL09 を導入し、周期境界条件(Periodic Boundary Condition: PBC) を取り入れた結晶の振動数計算が可能となった。本サーバの導入により、計算コストの高いジョブを効率よく実行することができるようになり、計算時間の高速化が実現された。 本年度は上記の手法をCoumarin-3-carboxylic acid に適用し、そのテラヘルツ振動数の帰属を報告した。平成25年度以降、上記の研究体制を用い、更に分子量の大きな水素結合性有機結晶分子を対象に、類縁体分子の構造由来の振動変化を系統的に調べ、また、複雑なスペクトルを与えることが予測される分子間の結合に着目することによって、各振動モードの化学的解釈を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は研究体制の整備期間と位置づけ、テラヘルツ分光装置の移設、およびDFT計算サーバの導入、および性能評価を予定していた。本年度7月の静岡大学電子工学研究所への所属先変更に伴い、テラヘルツ分光装置を移設・光学機器の調整を実施し、安定した分光測定が可能となった。一方、12月に納入したDFTサーバに関しては、2ノードの計算ノードのうち、一方に不具合が見られたものの、マザーボードの交換によって、24時間体制で2つのノードを安定して稼働させることができるようになった。 これらの進捗は当初予定していた通りのものであり、上記を総合的に判断して、初年度までの達成度は「おおむね順調に進展している」と考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に予定していた①試料作製、②スペクトル測定、③DFT振動数計算、の3つの研究体制は予定通り整えることができた。今後、平成25年度は初年度で確立された研究体制を用いて、実際に結果を創出し始める時期と位置づけ、具体的に一連の試料の測定を行うことで、テラヘルツ領域の分子振動を系統的に理解する。平成26年度は25年度の結果を引き続き発展させ続けると同時に、積極的に成果を国内外に向けて発信し、外部の意見を参考に更に洗練された方法を目指す。研究実施計画としては、主に以下のテーマについて取り組む。 (A) クマリン分子とその類縁体 クマリン分子は環状エステルの一種である。この分子自身は分子量146.15の小型有機分子であるが、その類縁体は数多く知られており、中には分子量が1000を超えるものも存在する。これらの試料のスペクトルをクマリン分子のものと比較し、置換基の影響を比較する。分子としての換算質量が大きくなればなるほどクマリン骨格由来のモードは低振動側へシフトすることが予想される。これらの変化の様子をDFT振動数計算の結果を踏まえて議論する。 (B) クロロゲン酸 クロロゲン酸はコーヒー酸とキナ酸がエステル結合した構造をもつ。まず、構成分子であるコーヒー酸とキナ酸のスペクトルを独立に測定し、各分子のテラヘルツスペクトルを独立して測定することで、それぞれの分子が振動スペクトルに与える影響への知見を深めることができる。 (C) 巨大分子への展開 対象分子の分子量を系統的に徐々に上昇させて測定を行い、出現するピークの数や線幅、D化される位置と同位体シフト量等の化学的な性質について統計的に検討し、考察を行う。 上記の方法を通じて、未知試料のテラヘルツスペクトル予測の実現可能性を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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