研究課題/領域番号 |
24760049
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
神原 大 静岡大学, 電子工学研究所, 特任准教授 (90452490)
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キーワード | テラヘルツ分光 / DFT / 周期境界条件 / アミノ酸 / ペプチド |
研究概要 |
本課題は有機分子からタンパク質におよぶ様々な生体分子の高精度テラヘルツスペクトルを広帯域にわたって実験的に獲得し、得られたスペクトルをDFT(Density functional theory: 密度汎関数法)計算によって求めた振動数・強度と比較することにより、テラヘルツスペクトルの帰属を明らかにし、生体分子の構造機能相関の解明へと発展させることを目指している。 平成25年度は小型有機分子や生体分子の単位分子、あるいはタンパク質の基礎となるペプチド分子を試料として用いた。Coumarin-3-carboxylic acid は、水銀灯を照射することにより付加環化反応が起こることが報告されている(CrystEngComm, 2008, 10, 573–576)。反応前後で原子の組成自体に大きな変化は見られないが、反応後の分子構造は、反応前の分子の構造を保ちつつ、全体としては環の付加によって大きく変化する。低振動領域に存在するこの分子の集団的分子振動が付加環化反応によってどのような影響を受け、その変化がテラヘルツスペクトル中でどのように現れるかについて調べた。また、アミノ酸グリシンのテラヘルツスペクトルの帰属を明らかにする一方、グリシンやアラニンが数分子結合した短いペプチドのテラヘルツスペクトルが鎖長の増加とともに平滑化することを示し、結果を理論的に求めた振動モードを比較することによってテラヘルツ領域における低振動モード密度の増加が、スペクトルの特徴を失わせる原因の一つであることを示した。 以上のように高分解能テラヘルツ分光スペクトル測定と量子化学計算によって分子振動の帰属を進める一方、固相中の有機分子の光反応の追跡やペプチドの構造階層性の解明にテラヘルツ分光が有用であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度は前年度に確立された研究体制を用いて、具体的に一連の試料の測定を実施し、テラヘルツ領域の分子振動を系統的に理解することを目標とした。Coumarin-3-carboxylic acid やアミノ酸、ペプチドを対象に行った研究においてテラヘルツ分光とDFT計算の比較は良い一致を示しており、研究の進捗状況は順調であると考えられる。 一方、低温測定に関して計画に遅れが生じている。DFTによって得られた振動数は温度 0K に対応することから、当初の計画では比較をするべきテラヘルツスペクトルも液体ヘリウムを用いて 10 K 以下の温度で測定を実施する計画であった。しかしながら、昨今の液体ヘリウムの供給量低下、および市場価格の高騰から、予定通りの低温測定を実施することが困難となり、代替として液体窒素温度 (~77K)での測定との比較となった。この点において「やや、遅れている」 と考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで小型有機分子や短いペプチドに対して実行した実験的・理論的手法を、より複雑な系に適応することにより、本手法の確立を目指す。具体的にはアミノ酸グリシンの結晶多形の解析や有機分子の脱水縮合反応の追跡を対象として用いる。また、より大きな分子への応用を目指し、ペプチドの鎖長をさらに伸ばした試料を用いる。最終的にはタンパク質の結晶の低振動モード解析を目指す。 これまでに確立してきた手法の発展を目指す一方で、極低温測定が実行できない場合の帰属法を理論的なアプローチによって開発することを考える。理論計算の初期構造も室温付近で測定されたX線構造が最も一般的であることから、テラヘルツスペクトルと計算で求められたバンドの振動数間の差異はデ―タベースの測定温度と実験の非調和性に起因すると考えられ、これらを理論的・経験的に補正することによってより正確な帰属が実行可能な手法の確立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題ではDFT計算用のパッケージとしてCRYSTALシリーズを採用しているが、2013年度中に最新バージョン CRYSTAL14 がリリースされた。これを2014年度中に採用するため、2013年度分予算を一部繰り越した。 CRYSTAL の最新バージョン CRYSTAL14 を導入する。
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