本研究の目的は、実在気体中の衝撃波現象を数理・数値的に解析し、その性質を明らかにすることにある。前年度までの研究によって、多原子分子気体に対する「拡張された熱力学(ET)」理論の有用性は明白になった。本年度は、このET理論をさらに発展させるとともに、ET理論に基づく衝撃波現象の解析を行い、その性質を詳細に調べた。 [最終年度に実施した研究の成果] (i) ET理論に基づき、希薄な水素気体中の衝撃波構造の解析を行った。衝撃波構造に対する水素気体の同位体効果を定量的に明らかにした。(ii) Meixnerの緩和現象に対する非平衡熱力学理論とET理論の間に成立する厳密な対応関係を導出した。この対応関係を用いて衝撃波構造の解析を行い、非平衡温度の定義によって温度分布が定性的にも異なりうることを明らかにした。(iii) 強い非平衡現象にも適用可能な、非線型構成式を持つET理論の構築に初めて成功した。従来、線型構成式の範囲でしか理論構築ができておらず、この成功は大きな進展だと言える。この理論は今後の衝撃波現象の解析の基礎になると期待される。 [研究期間全体を通じて実施した研究の成果] (I) 多原子分子気体中の線型・非線型波動をET理論に基づいて解析し、ET理論に基づくアプローチは従来のアプローチの問題点を克服できることを示した。特に、(II) 多原子分子希薄気体中の衝撃波構造を統一的に解析する方法を初めて提案した。(III) 以上の解析を精度よく行う数値解析プログラムの開発にも成功した。(IV) 非線型構成式の導出法や、単原子分子極限の解析など、多原子分子気体に対するET理論自体の研究も進めることができた。以上の成果は、気体力学、物性科学など、多くの分野にわたる幅広い研究の基盤となると期待している。
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