本研究の目的は,特異性をもつ方程式に対し,これまでになく高い性能をもつ数値解法を開発し,さらに理論的に動作保証も行うことである.対象とする方程式は物理・化学などでしばしば現れるが,特異性をもつ関数が現れるために数値シミュレーションが難しく,既存の汎用手法ではうまく扱えない.ただし,その特異性は境界にのみ現れ,内部では性質のよい「解析関数」になることが多く,そのような場合にはSinc数値計算法が非常に有効である.実際に研究代表者によって,特異性をもつ関数に対し,Sinc数値計算法に基づく高性能近似公式がいくつか提案されている.そこで本研究では,この成果をもとに,特異性をもつ方程式に対する超高性能数値解法の開発を行うこと,さらに理論保証によってその動作保証も厳密に行うことを目的とする. メインテーマに関する本研究の成果としては,代数的・対数的特異性をもつ積分に対するSinc数値計算法の誤差評価,累次積分に対する誤差評価などをもとに,非整数階微分方程式の初期値問題に対する数値解法の開発・理論解析,微積分方程式の初期値問題に対する数値解法の開発・理論解析などを行った.また隣接するサブテーマとして,有限区間でなく半無限区間や全無限区間におけるSinc数値計算法の誤差評価や応用によって適用先を広げるほか,Sinc数値計算法に代わる高性能近似手法の開発・理論解析によりさらなる高性能化の模索なども行った. 当初の予定では平成27年度が最終年度であり,ほぼ研究は計画通り進んでいたため,平成28年度は研究の仕上げおよびアウトプット(学会発表・論文発表)に集中した.また今後の展望を見越して,Sinc数値計算法におけるサンプリング点の取り方で変則的な部分があるところの改善を考えた.これはより規模の大きな問題に対応するためには重要なポイントとなる.
|