研究課題/領域番号 |
24760070
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
青野 祐子 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (20610033)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | レーザピーニング / 薄膜金属材料 |
研究概要 |
本研究課題は,薄膜金属の機械強度の改善や組織制御をレーザピーニング法を適用することで達成することを目標としている.本年度は,基本的な薄膜金属へのレーザピーニングの適用可能性およびその効果の調査を行った.薄膜金属へのレーザピーニングの実施条件は,従来のバルク材料へのレーザピーニングに関する先行研究を参考に行った. レーザピーニングは,レーザを試料表面に照射しアブレーションにより発生したプラズマのエネルギを材料中に衝撃波として与えることで実施される.本年度は,プラズマの拡散を防ぐ目的で,試料をガラスセル内に満たした水中に設置した.レーザは水中での透過率が高い,Nd:YAGレーザの第二高調波(532nm)を使用した.レーザのパルス幅は9ns,スポット径は12.8マイクロメートル,繰返し周波数は10Hzである.また,バルクの場合は試料表面の照射痕は機械的な除去も可能であるため,大きな問題とはならないが,薄膜の場合は照射痕の存在は致命的である.そこで,照射痕なしに衝撃波のみを薄膜へ伝えるため,試料表面に保護膜を設けることとした.試料はシリコン基板上にスパッタ法により成膜した銅(膜厚2マイクロメートル)とし,保護膜として市販のアルミ箔をシリコングリースで接着した.レーザの走査速度は10mm/sとした. レーザピーニングの効果は,処理後の内部応力,硬さ,密着性により評価した.応力は基板の反りから評価し,ピーニングにより圧縮の残留応力が発生することを確認した.また,レーザ出力を50から150mWまで変化させ評価し,出力の増加に対応して圧縮応力が大きくなることを明らかにした.次に,ナノインデンター硬さ試験の結果,ピーニングの処理によって硬さも向上していることを明らかにした.最後にテープテストにより密着性を評価したが,ピーニング処理後,密着性の低下が発生することが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,薄膜金属材料へレーザピーニングの実施を実現し,その効果を評価するに至っている.また,薄膜へレーザピーニングを適用する際に,バルクと最も異なる,表面形状への影響についても,保護膜を使用することで解決した.これらの点について,目標は達成しているが,計画当初に挙げていたアイデアのすべての検討には至っておらず,よりよい表面の保護について,次年度も検討を続ける予定である.また,レーザピーニングの効果の評価についても,応力,硬さ,密着性といった基本的なものは実施したが,組織の観察の評価が今後に残されている課題である.さらに,密着性については評価を行った結果,当初の仮定と異なり密着性が低下することが明らかになっている.また,次年度以降の発展への準備として,薄膜形成装置の準備を進めた.機能性薄膜合金の成膜を目指し,アークプラズマ蒸着法による二元合金成膜装置の準備を完了している.
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今後の研究の推進方策 |
基本的な薄膜金属材料へのレーザピーニング適用を実施および評価する環境が整った.次の段階として以下の検討を行う.これらの検討項目は当初の研究目的に加え,これまでの研究結果から新たに発生した問題やアイデアについて検討するものを含む. (1)組織制御の評価:レーザピーニング前後での組織の変化をX線回折法により評価する.また,ピーニングの条件によって組織制御を試みる. (2)ドライ環境下でのレーザピーニングの実現:レーザピーニングは通常,水中で実施されるが,マイクロマシン技術への適用を考えると水中への浸漬は望ましくない.そこで,レーザ光を透過する有機フィルムを表面に貼付し,完全にドライな環境でピーニングの効果を得ることを試みる. (3)機能性薄膜への適用:これまでの成果を基に,薄膜へのレーザピーニング処理を実施し,機械強度や機能性の向上を実現する.単一金属のみでなく,アークプラズマ蒸着法により得られる薄膜合金や,薄膜ナノコンポジットに対する適用も試みる.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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