本年度は,薄膜金属材料へのレーザピーニング(LP)適用に向け,ドライ環境LPの実現,試料-媒質間のギャップの影響,そして実際の薄膜への適用の三点について研究を実施した. 従来,LPは水中での実施が主流であった.これは,水を媒質とすることで試料の形状追従性やコスト面で優位なためであるが,一方で薄膜プロセス中では水の利用は真空に対応できないこと,汚染や洗浄の問題,乾燥時のスティッキング等問題が多い.また,薄膜の応用先は平面的な構造が中心であるため,従来のバルク材料のような形状追従性について制限が少ない.そこで,水の代わりにレーザ光に対し透明の固体材料を媒質とした,ドライ環境LPを提案した.その効果をガラス,サファイア,PETで比較したところ,ガラス自体にクラックが入らない範囲で,従来の水中LPを超える銅板の硬さ向上が見られた.レーザ照射部に圧縮の内部応力の発生も確認し,ガラスを媒質としたドライ環境LPを実現した. 次に,上述のドライ環境LPで問題となる,試料と媒質(ガラス)間のギャップがLP効果に及ぼす影響について検討した.試料-媒質間に空気層を設け,LPを実施し硬さの変化を測定した.その結果,20マイクロメートル程度のギャップでは水中LP以上の効果が得られ,さらに100マイクロメートル程度のギャップでも硬さの向上が見られた.MEMS等の応用先を想定する上で,数十マイクロメートルのギャップの克服は,固体媒質の欠点である形状追従性の問題の克服と言える. 最後に,これまでの結果を踏まえ,銅薄膜にガラスを媒質としてLPを実施した.薄膜でも,硬さの向上が得られることをナノインデンテーション法により確認した.一方,衝撃または内部応力による膜の剥離が一部で観察され,この解決が今後の課題である.
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