本研究では,高温構造材料であるNi基耐熱超合金の疲労き裂進展をターゲットにし,実機材と同程度の厚さを持つ小型サンプルを用いた実験により,疲労き裂進展に与える結晶学的因子の影響を明らかにすることを目的としている. この目的達成のため平成25年度は,前年度まで検討していた厚さ0.5mmのサンプルに加え,厚さ2mmおよび3mmの単結晶材サンプルに対する疲労き裂進展試験を行った.その結果,単結晶材の疲労き裂進展では,サンプル板厚の増加に伴いき裂の屈曲および分岐の頻度が増加し,破面の凹凸が大きくなること,および,それによってき裂進展速度が低下することを明らかにした.また,これらの実験に加え,本年度は有限要素モデルを用いた弾塑性解析を行い,き裂先端の力学場に与える試験片板厚や結晶方位,き裂の分岐や屈曲の影響についても検討を行った.その結果,負荷方向が結晶学的<100>方位になるサンプルと<110>方位になるサンプルを比較した場合,き裂前方すべり面上のせん断応力拡大係数は<100>方位から負荷を加えた方が大きくなり,実験結果と一致する解析結果となった.また,板厚の影響について平面ひずみ状態と平面応力状態を仮定した2次元解析により検討し,試験片板厚の影響を合理的に説明する解析結果が得られた. 以上,本研究課題で得られた成果の特色は,実機材と同程度の厚さを持つ小型サンプルを用い,疲労き裂進展における試験片板厚,結晶粒の方位,結晶粒界の影響を実験的に抽出した点にある.得られた結果は,微視組織的微小き裂の問題に対する新たな洞察を与えるだけでなく,粒や粒界の最適設計を通した高信頼性材料の設計・開発にも応用が効き,新たな粒界設計工学への学術的新展開が図れると期待される.
|