研究課題/領域番号 |
24760074
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
桑水流 理 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40334362)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 環境強度 / 腐食疲労 / 分極特性 / 腐食電流 / 酸化皮膜 / 塑性変形 / 腐食ピット / イメージベースモデリング |
研究概要 |
応力・ひずみ計測、電気化学計測、その場観察を行える腐食疲労試験装置を製作した。電気化学計測器(ポテンショ/ガルバノスタット)を購入し、3電極法により高精度に腐食電位と腐食電流を測定できるようにした。参照極は銀/塩化銀電極、対極は白金電極とした。参照極はルギン管に入れて用いるが、腐食面のその場観察ができるように、可動式のルギン管を設計した。対極は疲労試験に干渉しないように、荷重軸と平行にして、試験片の近くに配置した。腐食環境槽はその場観察のためにアクリル板で作製した。腐食環境を一定に保つため、ポンプにより水槽と環境槽で水溶液を循環させるようにした。 試験材料はADC12アルミニウム合金ダイカストとし、腐食疲労試験片を作製した。その場観察により結晶組織と腐食箇所の関係を明らかにするため、試験片表面は鏡面研磨した。試験片中央の表面に2mm×2mmの腐食窓を設け、試験部以外は絶縁・防食コーティングを施した。試験片の裏側には、予めひずみゲージを貼付し、作用極リード線をはんだ付けした。また、試験片中央部をX線CT撮像し、イメージベース有限要素弾性解析を実施した。解析から試験片表面の鋳巣まわりの応力集中を明らかにした。 製作したマルチフィジックス計測システムの機能を確認するため、定引張応力下の電気化学特性(分極曲線)を計測した。腐食環境はNaCl水溶液とした。応力の影響により、自然電位が変化することが確認できた。ひずみ計測も十分な精度が出ることを確認した。また、予備試験として、応力比0.1、加振周波数0.1Hzの腐食疲労試験を実施し、ひずみと腐食電位、腐食電流を計測できることを確認した。しかし、試験中に試験片のコーティング材が破損することが明らかとなり、コーティング材の改善を次年度の課題に加えた。次年度は、各種条件での腐食疲労試験を実施し、腐食データを取得する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、以下4つの項目を計画していた。①腐食疲労試験装置の製作、②試験片の製作、③X線CT撮像とイメージベース有限要素解析、④予備試験の実施。この中で最も重要な①を達成した。これにより、様々な条件で、腐食疲労試験と電気化学計測、更にその場観察が実施できるようになった。ただし、電極の破損等のトラブルがあり、装置の補修が必要となり、工程がやや遅れることとなった。④予備試験の結果として、②試験片製作のコーティング材に問題があることが明らかとなり、試験片の改善が次年度の課題として繰り越された。③CT撮像と有限要素解析を実施し、試験片ごとに欠陥の評価を行ったので、予定通り、次年度に、腐食疲労試験を実施し、解析から得られた応力状態を加味して、腐食挙動と疲労損傷挙動を明らかにする。 ④予備試験では、腐食疲労試験中の腐食電位と腐食電流を計測し、その精度を検証する予定であったが、工程の遅れにより、十分な時間の腐食疲労試験を実施することができなかった。ただし、短時間の腐食疲労試験における腐食電位と腐食電流は計測でき、ある一定以上のひずみでは、酸化皮膜が破損し、腐食電流が流れることが確認できた。電気化学計測の精度や、その場観察画像および有限要素解析結果との対応などの確認は、次年度の課題として繰り越した。しかしながら、工程の遅れはさほど大きくなく、概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、研究代表者と学部学生1名にて研究を実施したが、平成25年度は研究代表者と大学院学生1名(継続)と学部学生1名の3人体制で、研究を推進する。電気化学測定に関しては、単純な腐食セルと製作した腐食環境槽を使用して、1年間ノウハウを積み重ねたため、測定条件は確定している。次年度は、決められた条件にて測定するだけなので、無駄なく電気化学測定を実施できる。その場観察についても、別途学部学生1名と実験を実施し、大気中疲労試験において十分な実績とノウハウを積み重ねたため、次年度は効率的に顕微鏡撮影を実施できる。電気化学測定担当とその場観察担当に学生を1名ずつ割り当て、データ処理を分担することにより、効率的に実験を実施する。 次年度は、主に平成24年度の予備試験結果を基に、順次新しい研究成果を付け足す形で、学会発表を数回行う予定であり、専門家の意見を頂戴して、実験方法の改善や研究方針の修正に役立てる。日本鋳造工学会では、アルミ合金の専門家や腐食の専門家の意見を頂き、日本機械学会材料力学部門では、腐食疲労の専門家の意見を頂く予定である。また、アドバイザー・グループ(東京大学、群馬大学、芝浦工大、福井大学)とも相談しながら、効率的かつ迅速に、産業界への応用も見据えて、工学的価値の高い成果を得られるように、研究を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の使途は、主に①試験片の製作、②実験消耗品の購入、③学会発表旅費の3つである。①試験片製作としては、平成24年度から繰り越したコーティング材の検討を含め、本番用の試験片を新規に作製する。エポキシ系のコーティングは腐食疲労試験により破損することが分かったので、他の樹脂系とゴム系のコーティング材を用いて、実際に試験を実施することにより、最適な方法を選択する。その方法を用いて、本番用の試験片を20本程度用意する。 ②消耗品としては、腐食環境用の超純水と、高純度NaClを追加で購入し、実験に使用する。試験片の固定冶具も腐食環境中で使用するため、錆を生じているので、本番試験用に追加で作製する。その他、電気化学計測用の電極やリード線、ひずみゲージ、試験片研磨用の耐水ペーパーなどを購入して使用する。 ③旅費としては、日本鋳造工学会第162回全国講演大会(山梨)および第163回全国講演大会(富山)、日本機械学会M&M2013材料力学カンファレンス(岐阜)での研究成果発表を予定している。 実施内容としては、平成24年度から繰り越した、腐食疲労試験での電気化学計測とその場観察の予備試験を追加実施し、実験条件を決定する。それに基づき、本番の腐食疲労試験を実施し、腐食挙動データと疲労破壊挙動データを取得する。またX線CT画像に基づく有限要素解析も併用し、鋳造欠陥の評価と腐食・損傷挙動の評価を統合して、総合的に腐食疲労破壊挙動を明らかにする。具体的には、応力波形の影響と加振周波数の影響を系統的に調べ、腐食に対する応力の影響を定性的に明らかにする。更に、腐食ピットの発生条件と成長速度について定量的に明らかにする。
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