研究課題/領域番号 |
24760077
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三上 欣希 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40397758)
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キーワード | 微視的ひずみ / 微視的応力 / 結晶方位 / デジタル画像相関法 / 結晶塑性論 |
研究概要 |
平成25年度は,オーステナイト系ステンレス鋼の微小試験片の引張試験を対象として,結晶塑性有限要素法による数値解析手法の高度化に取り組んだ.多結晶有限要素モデルは,微小試験片表面で電子後方散乱回折(EBSD)法により測定した結晶粒形状および結晶方位に基づいて作成した.ただし,測定領域の制約により試験片平行部のみの測定結果しか得られないため,結晶塑性有限要素法による数値解析を実施する際の境界条件について検討し,適切な設定方法を見出すことができた.また,結晶塑性有限要素法で使用する材料パラメータについても,個々の結晶について実験により測定することは困難であり,その決定手法を構築する必要があった.そこで,微小引張試験によって得られた応力ひずみ曲線を,多結晶有限要素モデルを用いた結晶塑性有限要素解析により再現できるような材料パラメータを同定することを試みた.その結果,見かけ上,同一の応力ひずみ曲線となっていても,結晶塑性有限要素法で使用する材料パラメータは一意には決定できないという課題も明らかになった.そこで,同一の応力ひずみ曲線を再現するような複数の材料パラメータの組合せについて,数値解析によって得られる微視的な応力分布がどのように変化するかを検討した.その結果に基づくと,同一の応力ひずみ曲線が再現されていれば,材料パラメータの組合せが異なっていても微視的な応力分布はほとんど影響を受けないことが示された.この結果は,微視的な応力分布を評価するための結晶塑性有限要素法における適切な材料パラメータの決定手法のひとつになると考えられる.以上のようにして決定した境界条件および材料パラメータの下で数値解析を実施し,平成24年度にデジタル画像相関法で測定した微小引張試験片の変位と比較した結果,よい一致を示すことが確認でき,十分な定量性を有する結晶塑性有限要素解析手法を確立することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
デジタル画像相関法によるひずみ測定と電子後方散乱回折法による結晶方位測定を組み合わせることにより,結晶方位による異方性変形挙動を考慮して微視的ひずみテンソルを面外成分も含めて同定するという目的に対し,その基盤となる手法は概ね構築が完了した.平成24年度は,デジタル画像相関法による微視的変位および微視的ひずみを測定する手法を構築した.巨視的な付与ひずみを平均値とするような微視的なひずみが測定可能であることを確認しており,定量的にも妥当な結果が得られている.平成25年度は,微視的応力および微視的ひずみを詳細に評価するため,多結晶有限要素モデルを用いた結晶塑性有限要素解析手法の高度化を実施した.境界条件の設定方法および材料パラメータの決定方法を検討することにより,デジタル画像相関法による測定結果とよい一致を示すことを確認できた.以上,現在までに,デジタル画像相関法および結晶塑性有限要素解析の両者が十分な定量性を有し,相互に比較考察可能であることを検証できた.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度までの研究により,デジタル画像相関法および結晶塑性有限要素解析のそれぞれについて基本的な手法を構築することができただけでなく,相互に比較することで,両者が定量的な妥当性を有することまで確認できた.現在までに,見かけ上の変位やひずみについては,実験(デジタル画像相関法)と数値解析(結晶塑性有限要素解析)とで,よい一致を示すことが確認できているので,今後は,面外ひずみ成分の同定や,応力場の推定のために必要な手法の展開を試みる.面外ひずみ成分の同定に関しては,過去の研究で塑性変形における体積一定の仮定の下で推定を試みたものがあるが,結晶粒が一様に変形するなどの仮定を用いているため,適用可能範囲が限られている.本研究では数値解析を併用するなどして,その制約を緩和することを試みる.また応力場の推定に関しても,ひずみエネルギーの最小化などに基づいて決定することを計画しているとともに,電子線回折を用いた弾性応力場評価手法との比較考察を検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度の実験結果の活用や,既存の数値解析設備の活用により,研究を効率的に実施することができたため. 熱処理や高精度加工が必要な微小引張試験片を用いた試験を計画しており,主にそのために充当する計画である.
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