本年度は,昨年度からの研究成果を受け,新たに蛍光輝度比観察系を導入した.その結果,Fluo3単体での蛍光観察では捉えることのできなかった微弱な細胞内カルシウム応答を観察することに成功した.また,細胞伸展時に生じるピントずれに起因する蛍光輝度の変化についても蛍光輝度比法を用いることによって,その影響を軽減できることを実証した. この実験系改良を受けて,伸展刺激を受ける骨芽細胞の細胞内カルシウム応答を毎秒10フレームの高時間分解能でその場観察することに成功した.しかしながら,当初の目標であった細胞内部での応答発生起点を特定するまでには至らなかった.この原因は,当初の予想よりも伸展刺激付与に対する細胞内カルシウム応答が微弱であり,蛍光指示薬の蛍光輝度変化量が微小であったことが挙げられる.蛍光輝度比観察による高感度化で応答の有無は捉えることができるようになったが,細胞内における蛍光輝度比の不均一性を評価することはできなかった. 細胞の応答観察系の改良と平行して,伸展刺激を受ける細胞の細胞内ひずみ分布を測定するための実験系を構築した.遺伝子導入により細胞内のアクチン細胞骨格を蛍光標識し,伸展刺激付与時の変形挙動をその場観察することに成功した.取得した画像から,画像相関法を用いることで細胞内のひずみ分布を計測した.その結果,伸展を受ける細胞内においては,引張り方向と平行なひずみ成分のみではなく,引張り方向と直交した方向のひずみ成分も生じていることが明らかとなった.これは,細胞内でネットワーク構造を形成しているアクチン細胞骨格構造の不均一性・配向性によって生じている可能性を示唆している. これらの結果を踏まえ,細胞のカルシウム応答観察系のさらなる高感度化を達成することによって,伸展刺激を受ける細胞の細胞内力学場とカルシウム応答発生との関連について解き明かすことが可能になると期待される.
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