本研究では,単結晶の応力/ひずみ測定に限定的に適用されてきた顕微ラマン分光法を,レーザーの入射・検出方向を段階的に変えて測定する角度分散型顕微ラマン分光法に拡張し,単結晶から多結晶まで適用できる応力測定技術の開発を目的としている. まず,角度分散型顕微ラマン分光装置の開発を行った.応力測定等に用いられてきた従来の装置は落射式であったが,入射方向を0°,50°そして下側からの100°の3方向からの入射を可能とし,検出は0°方向から行う角度分散の光学系を構築した.これらの入射角度はミラー1つを90°回転させることで瞬時に変更でき,焦点の位置調整で入射ステージを移動させても光軸がずれない光学配置を実現した. 次に,角度分散型顕微ラマン分光法の理論構築を行った.一つは結晶方位同定に用いるラマン散乱強度,もう一つは応力測定のために新たに提案した,ラマンシフトωと入射角度sinψの2乗の関係から応力を同定する「ω-(sinψ)2乗法」の理論構築を行った.さらに,結晶方位同定と応力測定の可能性について実験的に検討した.結晶方位同定においては,角度分散特性を利用することで,アルミナの結晶軸であるc軸ならびにa軸方位を決定することができた.特筆すべきは,従来の垂直入射-垂直検出で決定できなかったa軸方位,ならびにc軸の方位(正負)を含め全結晶方位の同定を実現できた.ただし,その同定精度については今後の検討課題となった. 一方応力測定では,多結晶部分安定化ジルコニアを対象として,0°入射0°検出,80°入射0°検出の角度分散特性を利用して,多結晶体の測定を行った.一定負荷に対する459cm-1と632cm-1のラマンシフトの変化量が,入射角度に対して変化し,応力測定で重要となる角度分散特性が確認できた.これにより角度分散型顕微ラマン分光法を用いることで多結晶体の応力測定の可能性を示した.
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