研究課題/領域番号 |
24760091
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
田原 大輔 龍谷大学, 理工学部, 講師 (20447907)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 計算バイオメカニクス / 骨再構築 / 海綿骨 / 有限要素法 / 均質化法 / 骨質 / 異方性 / 骨折危険性 |
研究概要 |
本研究は,計算力学的アプローチによる骨梁形態変化の予測と,骨質を考慮した応力解析に基づく骨折危険性の評価を行う手法を開発するとともに,実骨の観察例と骨再構築シミュレーションにより得られる海綿骨形態を比較し,骨再構築則を用いた骨の力学的評価手法の有用性を評価するものである.初年度は,ブタ海綿骨を対象とし,骨吸収と骨形成の均衡の変化に伴う骨梁形態変化の過程を評価するとともに,骨梁内の生体アパタイト(BAp)結晶の配向に起因する異方性を考慮した骨の力学的特性評価手法を提案し,以下の成果を得た. 1. 簡易骨梁とブタ海綿骨のモデルを対象とし,申請者らが提案する骨再構築シミュレーション手法における骨形成・骨吸収の開始閾値と骨梁形態変化の関連を定性的・定量的に評価した結果,初期形態が同一のモデルに対しても,骨形成・骨吸収の均衡の変化により,健常例や骨粗鬆症例などの特徴的な形態変化を表現できることが示された. 2. 形態変化に伴う海綿骨の応力分布と骨折危険性の変化の定量的評価を目的とし,骨折と密接に関連する高応力側から応力分布のヒストグラムを累積表示する強調評価手法を提案し,健常例・骨粗鬆症例間の累積頻度の差より,提案手法から得られる定量的数値が骨折危険性の指標として応用できる可能性が示唆された. 3. 「BAp結晶配向方向は,骨梁内の主応力方向に対応する」との仮説を均質化法に組み込み,骨再構築則に基づき得られた骨梁形態のマクロな力学的特性評価を評価する手法を提案した.提案手法を健常・骨粗鬆症例に適用した結果,骨粗鬆症例の機械的特性は相対的に低く,骨折危険性が高いことが示された.また,骨粗鬆症例は,日常的な自重作用方向の荷重支持機能は維持しているが,転倒などの非日常的な負荷には脆弱であることが示され,骨質を考慮した提案手法が骨折危険性の予測において有用であることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「骨質決定の主因子である生体アパタイト(BAp)結晶配向性に起因する骨梁骨の機械的特性の異方性を反映した骨再構築則および,骨梁骨の形態変化に伴う応力分布変化の強調評価手法の開発」が交付申請書に記載した研究目的の1つであり,本年度は以下の成果を上げることができた.このため,当初の目的に対し,研究は順調に進展していると考える. 1. 簡易骨梁とブタ海綿骨の骨再構築シミュレーションにおいて,骨形成・骨吸収の開始閾値と骨梁形態変化の関連を定性的・定量的に評価し,健常例や骨粗鬆症例などの特徴的な形態変化を表現できることを示すことができた. 2. 海綿骨内の応力分布に対し,骨折と密接に関連する高応力の発生頻度を強調評価するため,高応力側からの累積ヒストグラムによる手法を提案し,健常例・骨粗鬆症例間の累積頻度の差を定量的に評価することに成功した.また,提案手法から得られる定量的数値が骨折危険性の指標として応用できる可能性を示唆できた. 3. 過去の研究で報告されている「BAp結晶配向方向が骨梁内の主応力方向に対応する」ことを均質化法に組み込むことで,骨再構築シミュレーションにより得られた骨梁形態のマクロな力学的特性を算出する手法を開発・提案することができた.また,提案手法を健常・骨粗鬆症例に適用し,骨粗鬆症例の荷重支持機能の低下と骨折危険性の増加の特徴を捉えたことで,本研究における骨質を考慮した骨の力学的特性評価の提案手法が骨折危険性の予測において有用であることを示唆することができた. 今後の課題として,提案手法の有用性をさらに詳細に検討するため,ブタ海綿骨のサンプル数を増やすとともに,ヒトの献体骨までを視野に入れて適用事例を増やし,骨質を決定付ける重要な因子の1つである骨の形態変化と骨梁内の異方性を考慮した評価手法の有用性を評価する必要があると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
1. 骨再構築シミュレーションにより得られる骨梁形態の妥当性を検証するため,骨再構築則における力学刺激量のモデル化の妥当性を評価する.力学刺激量の定義には,相当応力とともに,ひずみエネルギー密度の指標が有用である可能性がこれまでの研究で示唆されていることから,今後,本研究で用いる骨再構築則に両指標を適用して得られる海綿骨の形態特性を示す指標を定義して比較を行い,骨質を決定づける骨梁形態変化の記述のための適切な力学的物理量の検討を行う.また,骨形成・骨吸収の平衡状態とともに骨梁形態変化に影響を及ぼす力学刺激量感知径の変化が,骨梁形態・骨折危険性の変化に与える影響を定量化する. 2. 骨粗鬆症が進行する骨再構築条件を同定し,本研究の骨再構築則を用いた骨折危険性予測の有用性を評価するため,ヒト椎体の健常例と骨粗鬆症例に対するマイクロCT撮影による形態観察を行うとともに,そのイメージベース計算モデルにおける骨形成・骨吸収の平衡状態,力学刺激量感知径と,骨梁形態変化・骨折危険性の関連を定量化し.骨粗鬆症が進行する骨再構築条件を考察する.また,より大きな範囲の海綿骨の骨再構築シミュレーションを行い,計算モデルのサイズとモデルの境界条件が骨梁形態変化に与える影響を評価するとともに,得られる骨梁形態の妥当性を評価するため,骨再構築シミュレーション計算の並列化を行い,より大規模な骨再構築シミュレーションを実現する. 3. 具体的な疾患に対する骨再構築則の臨床応用性を評価するため,骨再構築現象が密接に関連することが予想される疾患例として,変形性股関節症とともに大腿骨近傍の臼蓋の海綿骨内部に好発する骨嚢胞を対象とし,その周囲の力学場の変化および骨梁形態の変化と,骨嚢胞の成長の関連を計算シミュレーションにより検討する.また,その発生・成長メカニズムの解明に挑戦する.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究では,まず,骨再構築則における骨梁の骨形成・骨吸収と力学刺激量の関係のモデル化の妥当性を評価するとともに,より大きなサイズの海綿骨を対象とした骨再構築シミュレーションを実現するため,計算プログラム開発用計算機および,並列計算機環境の導入・設置に研究費を使用する.また,計算機の大規模化に対応し,大規模シミュレーション用の結果ポスト処理システムの導入を検討するため,導入に伴う費用と保守費が必要になる.骨再構築シミュレーションにおいては,1回の応力解析を1ステップとし,各ステップで骨梁形態変化を判定・更新し,この繰り返し計算を行うため,膨大な計算データ量を扱う必要がある.また,解析対象サイズの拡大に伴い,骨梁骨の異方性(骨質)を考慮した均質化解析における計算負荷量も増大するため,本研究の計算シミュレーションの能力・威力を十分に引き出すためには,大規模計算機環境とそれらの結果の迅速な可視化環境の構築の構築が重要であると考える. 次に,ブタ骨やヒト献体の海綿骨の骨梁形態観察を目的としてマイクロCT装置による骨の撮影を予定するため,撮影条件のキャリブレーションのために骨量ファントムの使用料に研究費を使用する.実骨の観察結果と骨再構築シミュレーション結果の比較・評価は,本研究における計算手法の妥当性・有用性を評価する上で重要な役割を担うと考える. さらに,次年度は,研究成果報告のための国内・国際学会発表を各2回,論文発表を1回予定する.このため,会議への参加のための出張費と論文作成費への研究費の使用を予定している.
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