研究課題/領域番号 |
24760094
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 科学警察研究所 |
研究代表者 |
巽 瑛理 科学警察研究所, 法科学第二部, 研究員 (60623197)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 高速衝突 / カタストロフィック / SPH法 / 弾丸 / 破壊 / 法科学 |
研究概要 |
本研究は人体のような柔らかい物質には貫入し,鉄板等の硬いターゲットに衝突すると破砕するような特殊なフランジブル弾丸の破壊挙動の特性を調べ,破砕後の状態から弾丸の衝突前の速度や角度を推定することを目的としている.シミュレーションと実射実験を行い,フランジブル弾丸の挙動を明らかにする.本年度は,実射実験の環境の整備,シミュレーションコード開発,基礎的な実射実験を行った. 実験環境の整備としては,破砕したフランジブル弾丸が高速で飛散するため,安全に十分配慮し,また二次的破壊を防いで破片を回収できるよう,ターゲット周りを囲うアクリル及び木製の囲いを作成した. フランジブル弾丸の大変形破砕のシミュレーションを行うために,SPH法(Smoothed Particle Hydrodynamics method)によるコード開発を行っている.SPH法は連続体の方程式系であるために大変形を表現するのに便利である一方で,フランジブル弾丸のように脆性破壊をする物体については破壊のモデリングが非常に重要になる.現段階では3次元の弾塑性挙動をシミュレーションすることができるが,フランジブル弾丸の脆性破壊を再現できていないため,破壊のモデルについては更なる検討の必要がある. 本年度後期には,入射速度を変化させて破壊挙動を観察するという基礎的な実験を行った.入射速度は130~350m/sで変化させ鉄のターゲットに衝突させた.衝突破壊の様子は2台のハイスピードカメラを同期させて撮影した.2台のカメラを用いて撮影することにより,破片の運動の3次元計測を可能にした.この時,弾丸は何れの速度においてもカタストロフィック破壊を起こし,破片の質量分布及び速度分布は入射速度に依存した傾向が見られた.破壊によって生じた破片質量の上位5個の平均質量が入射速度に大きく依存した傾向が見られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験環境の整備に関しては,順調に達成された.一方,数値計算については目標達成に向けて多少の遅れがあると考えられる. 本年度中にSPH法によるシミュレーションコードの完成を目標としていた.SPH法は連続体的な挙動を表現することを得意とするが,本研究で目指す,弾丸の脆性破壊といった挙動を再現するためには,適当な破壊モデルを採用する必要があるが,まだ破壊モデルについて詳細な検討ができていない.現在は,単純引張強度を基準とした瞬時モデルを採用しているが,脆性破壊を表現するには不適当であると考えられる.脆性破壊のモデルとして,TCK破壊モデルやWeibull分布を用いた統計的な破壊モデルがあるが,今後はWeibull分布による統計的な破壊モデルの導入を進めていく. また,実験を実施するにあたって,実包といった特殊な物品を必要とするため,入手するのに時間がかかっている.そのため,予定していた実験数のペースから遅れているが,実験の成果についてはほぼ予想していた成果が得られていると考える.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は研究を進めるための下準備が占める割合が大きかった.今後は,予定していた通り,実験・数値計算を進めていき,研究成果を学会発表・論文投稿等により還元していきたいと考えている. 具体的には,本年度までは入射速度を変化させ,破片の質量分布および速度を調べてきたが,次年度以降では入射角度および衝突するターゲット材質(アルミ板,木板,ポリカ板,石膏ボード等)が弾丸の破砕の状態に与える影響を調べる予定である. また,本年度は実包の数に制限があり1条件あたりの試行数が十分ではないと考えられたため,今後,再現性の観点から,これまで行った実験についても実験サンプル数を増やしてく予定である.実験はすべて平成25年度中に終わらせ,弾丸破砕後の破片分布の入射速度,入射角度,ターゲット材質依存性についてまとめる. 数値計算についてはまだ改良が必要と考えられる.現在の連続体的なモデルから,脆性破壊の状態を表現するため,Weibull分布を用いた破壊の統計的なモデリングを導入する予定である.これにより,弾丸がターゲットを破壊しながら,弾丸自らも脆性破壊をする様子をシミュレーションする.シュミレーションより得られた,破片の速度分布と実験結果とを比較する.また,ターゲットの強度の違いによる,破壊へのエネルギー分配の割合について議論する.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度購入予定であった実包の入手が遅れているため,次年度に購入する. 衝突するターゲットの材料の影響を調べるため,ターゲット材料を購入する予定である.具体的には,アルミ板,木板,ポリカ板,石膏ボードを予定している.また,強度の弱い木板,石膏ボードでは弾丸がターゲットを貫通する可能性があるため,ターゲット後方に弾丸回収用箱(ポリカ製)を設置する. また,次年度は本年度の実験内容について衝突研究会,衝撃波シンポジウム等において発表する予定であるため,そのための旅費として使用する.
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