研究課題/領域番号 |
24760094
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研究機関 | 科学警察研究所 |
研究代表者 |
巽 瑛理 科学警察研究所, 法科学第二部, 研究員 (60623197)
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キーワード | 高速衝突 / カタストロフィック / 弾丸 / 破壊 / 法科学 / SPH法 |
研究概要 |
フランジブル弾丸の破砕過程について基礎的な実験により,その破砕特性についての知見を得た.フランジブル弾丸をSEM観察すると,銅と錫の圧粉焼結体であり,その内部に空隙を有していることが分かった.フランジブル弾丸の破砕特性は再現性の良いものであった.弾丸の入射速度を変化させ,破砕した弾丸破片の累積質量分布を調べると,先行研究の脆性物質に見られるようなべき乗則が再現した.実験結果より,その傾きは速度には依存しないが,最大破片群の質量は入射エネルギーのべき乗に反比例する傾向があったため,最大破片群の質量から入射速度をある程度推定することが可能であると考えられた.また,ターゲット材質を変化させると,べきの傾きは有意に変化した.本研究では,ターゲットをアルミ板と鋼板で比較したが,アルミ板では鋼板の場合よりも累積質量分布のべきの傾きは緩やかになり,最大破片質量も3倍程度大きくなった.この分布の傾きが変化する理由としては衝撃インピーダンスの違いによる応力波の界面透過・反射率や干渉位置によるものと考えられるが,今後さらなる検証が必要である. ターゲットを鋼板としたときのフランジブル弾丸の破砕の様子を2台のハイスピードカメラを用いて観察を行った.2台のカメラを同期させ,時時刻刻の画像を三角測量の原理で対応付けることにより,大きい破片群の三次元位置計測を行い,破片分布の速度―角度分布を得た.フランジブル弾丸の破片群は高速で飛散する微細破片と,ある程度の質量を持つ大きな破片群に大別できる.大きな破片群は入射速度にかかわらず,ほとんどがターゲット平面からの角度が10度以下で,入射速度に対して5~40%程度で飛散していることが分かった.質量の小さな破片群の運動エネルギーは大きな破片群の持つ運動エネルギーよりも十分に小さいため,入射エネルギーの半分以上が弾丸の破砕に使われたと考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度は,前年度実包の入手遅れによってできなかった実射実験を行った.実験条件(入射速度,ターゲット材料)を変化させて実験とその解析を行った.回数を重ねることで,フランジブル弾丸の破砕が再現性の良いものであることが分かった.破砕が起こる際には過去の脆性材料の衝撃破壊で示されたような質量のべき乗則が成り立っていることが確認できた.また,このべき乗則を用いて破壊の特徴を抽出することも可能である.破片の運動を3次元で解析することによって,入射エネルギーの分配をより正確に評価できた.これは今までにない試みである. 実験を進めていくなかで,ターゲット材質を変化させた際については,衝撃インピーダンスの考察などに更なる実験による検証の必要性が出てきた.これまで衝突ターゲットの材質の変化による弾丸破片分布の変化はこれまで重要視されておらず,検証が進んでいない状態である.しかし,本研究においては破片分布から入射速度や角度を推定しようとするものであるため,ターゲット材質の違いによる破片分布の変化は極めて重要である.現在のところ,この変化がターゲットの形状(厚さ)特性によるものであるか,材料特性によるものであるかまだ明確になっていないため,実験を重ねて検討していきたいと考えている. 実験についてはおおむね予定通り行えているが,SPHによる数値計算が遅れている.脆性破壊の特性が再現されないため,現実的な破砕の状態を再現できていないという問題があるが,弾丸破砕前の応力波の伝播やターゲットの変形などはある程度再現できている.実験から衝撃インピーダンス等のターゲットの物性値の重要性が見えてきたため,剛性や密度といった材料パラメータを変化させたときの応力波の干渉位置について数値計算を進めているところである.
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今後の研究の推進方策 |
今後はSPHの数値計算を早急に進める.SPHは元々流体の基礎方程式を用いているため,脆性破壊を表現することについて難しい部分があると考える.しかし,弾丸破砕前の応力波の伝播や弾塑性材料ターゲットの変形についてはよく再現できている.破片の大きさ分布を決めるのには応力波の干渉位置や最大応力値等が重要となると考えられるため,そこに重点をおいて解析を行う.つまり,まず数値計算で求められる応力波の干渉位置と実験から得られた破片サイズ分布を結びつけることを目的として数値計算を進めていく方針である. ターゲット素材を変化させると,予想よりも弾丸破片質量分布が大きく変化した.現在のところ,この原因がターゲットの衝撃インピーダンス等の物性によるものであると考えているが,これまでの実験からは確定的な証拠が得られていない.それは,ターゲット材質が同じであったとしても板厚が違うと破片の質量分布が変化するのではないかという疑問である.この問題を明らかにするため,同一の素材で板厚を変えたものを用意し衝突実験を行う.また,同一の板厚でターゲット材質を鋼,アルミ,銅等に変化させて実験を行う.さらに,入射角度は捜査上非常に重要な情報であるので,入射角度を変化させたときの弾丸破片質量分布についても調べていく. 実験の解析手法についてはこれまでに確立できたので,実験を行い,速やかに解析を進めていきたいと考えている.本研究で行っているような,3次元で破片の速度,角度分布を精密に計測した例は今までにない.ただし,2つのカメラ画像から3次元座標を計算する手法については,破片数が多くなればなるほど時間のかかるものであるため,改良の必要がある. 次年度は最終年度であるため,研究成果を広く一般に報告するため,学会発表,論文投稿を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由としては,今年度に発注した物品について来年度の納品となってしまったこと,及び,予定していた学会発表を行わなかったためである. また,実験計画から遅れているため,実験に使う予定であった物品の購入をまだ行っていない. 発注した物品については次年度に納品される予定である.今年度に行えなかった実験を本年度に行うため,ターゲット試料購入に15万円程度かかる見込みである.試料については早急に発注したいと考えている.また,今年度の実験から追加実験が必要になったため,その実験に使う試料も購入したいと考えている.
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