研究課題/領域番号 |
24760095
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
李 志遠 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測フロンティア研究部門, 主任研究員 (70509710)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 大型構造物 / 変位ひずみ計測 / モアレ縞 / 位相解析 / 位相シフト法 / 離散フーリエ変換 / 規則性格子 / 高次周波数 |
研究概要 |
本研究は、格子画像の位相情報を活用した革新的全視野変位・ひずみ計測手法を開発するものである。初年度では対象構造物表面の規則性模様の位相情報を有効活用した高精度高速な全視野変位・ひずみ分布を測定できる新しい計測手法の原理を確立し、以下の研究成果が得られた。 1.規則性模様を活用した変位計測法の開発 本研究では扱える格子模様を拡張し、大型構造物表面に存在する任意の規則性模様(例えば建築物の外壁タイル等)に対応できるような汎用性の高い全視野変位計測法のアルゴリズムを考案した。ここではサンプリングモアレ法の間引きと輝度補間処理より得られる複数枚の位相がシフトしたモアレ縞に対して、フーリエ変換を行う際に、従来の基本周波数成分のみならず、高次の周波数成分までを考慮することで精度の向上を図った。実際100mmピッチのタイルを用いた精度確認実験では、0.1mmの精度で微小変位を検出することができ、本開発手法が大型構造物の変位分布を得るのに極めて有効な手法であることを確認した。 2.動的ひずみ計測法の開発 サンプリングモアレ法によって得られるモアレ縞の位相分布に間引きの位相を考慮すれば元格子の正確な位置情報を示す位相を算出できる。本研究では変位情報を示すモアレ縞と空間情報を示す元格子の両方の位相情報を同時に活用し、基準長不要な動的ひずみ計測法を確立した。その有効性についてシミュレーションより確認した。今後、ひずみゲージを用いた比較実験より精度を確認する予定である。 3.変位・ひずみ計測精度の評価 様々な格子模様(矩形波形やタイル状波形等)と計測条件下(ランダムノイズ、間引き数等)に対する本開発手法の精度を評価できるシミュレータを開発した。これを用いて理論的精度を検証した。その結果、高次の周波数成分を考慮することで、任意の規則性格子に対して計測精度を向上できる効果があることを判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、大型構造物を対象に格子画像の位相情報を活用した実用性の高い全視野変位・ひずみ計測手法を開発するものである。初年度では、任意の規則性のある模様を施した構造物表面をカメラで撮影し、撮影された変形前後の各1枚の格子画像から得られるモアレ縞の位相情報を高次の周波数成分まで考慮した高精度な変位・ひずみ計測法を開発した。さらに提案したこれらの変位・ひずみ計測法の理論精度を明らかにするためのシミュレータを開発し、計測精度を明らかにした。これらの達成は当初の計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は前年度の研究成果を踏まえ、次の2項目の研究を実施し、環境振動の影響やカメラの再配置による位置ずれをキャンセルできる手法を開発する。さらに開発したこれらの変位・ひずみ計測法を、現場計測を想定した大型模擬構造物検査への応用を展開する。 1.室外の振動・カメラ位置ずれの高精度補正手法の提案 格子の位相情報を用いた高精度な補正手法を開発する。具体的にはカメラで撮影された画像と実際の測定対象物の関係は、カメラレンズの焦点距離・カメラの画素サイズなどを含むカメラの内部パラメータと位置ずれ前後のカメラ間の位置・回転を表す外部パラメータより成り立っている。本研究では変位計測で使用するカメラとレンズは同一のものを用いるとし、カメラの内部パラメータとレンズ収差係数を事前に寸法既知の基準物体を用いて算出する。その後、構造物周りの変形しない複数の同一位相値を探索し、最小二乗法を用いてカメラの外部パラメータを高精度に決定することで、現場対応可能な変位・ひずみ計測を実現する。 2.大型模擬構造物検査への適用 本開発手法は、大型インフラ構造物の短期または長期の構造ヘルスモニタリング評価(例えば、構造ビルの振動や橋梁の経年劣化など)に利用できる。環境振動のある室外の現場計測を想定した模擬構造物を用いた評価実験を計画している。さらにカメラの位置を意図的にずれした場合の精度について検証し、本手法の有効性を実証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度では、大型構造物の変位・ひずみ分布計測に必要な高解像度のデジタルカメラや精度確認検証ための自動移動ステージをすでに購入している。次年度では大型インフラ構造物を想定した室外実験実施ための消耗品50万を使用する予定である。さらに、得られたシミュレーションおよび実験結果を取りまとめ、国内会議および国際会議における本研究の成果発表、光学計測や実験力学分野の国際学術雑誌への論文投稿など、本研究成果を世界へ向けて発信するための国内旅費10万、海外旅費50万、その他10万をそれぞれ使用する計画である。
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