1枚の紙を折ることで形を作る「折り紙」は古くから幅広い世代に親しまれてきたものであるが、平面を折って形を創出する工程は幾何学的に奥深い問題を内包し、多くの数学者による研究の対象ともされている。工学的には「折りたたみ」はものをコンパクトにする技術に直結し、ものの運搬や収納に要するスペースを抑えるために有効である。一方で、制作可能な形の自由度が乏しく、意図した形を1枚の素材から作り出すことは難しい問題である。 素材にスリット(細長い穴)を設けることで、制作可能な形の自由度が増す。例えば長方形の素材にスリットを設けることで単純でない曲面を持つ椅子の形を作ることが可能となる。素材にスリットを設ける加工は容易であるため、このような手法での造形は工学的にも意味がある。 当該年度は、1枚の素材にスリットを加え、それを用いて意図した形を制作するためのシステムの研究開発を行った。具体的には、長方形の平板素材に、平行にスリットが入った状態を初期状態とし、素材が伸縮しないという条件のもとにユーザが対話的に形状モデリングを行えるシステムを開発した。元の素材形状と、得られる立体形状との整合性を持たせるために、立体形状が左右対称であるという制約のもとに、折り曲げ角度を最適化計算で求めた。これにより、従来の手作業でのモデリングでは困難であった、スリット入り素材による形状の設計が可能となった。設計した形状は、3Dプリンタを用いて出力した台座にアクリル板を加熱して押し当て、実際に制作可能であることを確認した。
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