研究課題/領域番号 |
24760126
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
中野 美紀 独立行政法人産業技術総合研究所, 先進製造プロセス研究部門, 主任研究員 (20415722)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 摩擦 / 自己組織化膜 / 鉄系材料 / 表面分析 |
研究概要 |
平成24年度は、一般構造用圧延鋼材(SS材)、機械構造用炭素鋼(SC材)、ステンレス(SUS材)など工業的によく用いられる鉄系表面を用いて、分子膜の修飾を行い、用いる分子種の選定を行った。金属酸化物においては、従来、有機シラン系SAMが用いられてきたが、近年、有機ホスホン酸系SAMが着目されており、有機シラン系SAMよりも安定で密度が高いことが報告されている。実際に、SS材およびSC材表面でアルキルシランとアルキルホスホン酸でSAMを作製し、X線光電子分光装置(XPS)を用いて確認したところ、アルキルホスホン酸より作製したSAMの方が鉄系表面で高密度な膜を形成することが確認でき、基板・分子間の結合種にはホスホン酸が有効であることが確認できた。 次に、SAMの耐熱性の評価を行うため、アルキルホスホン酸およびフッ素を含むフッ化アルキルホスホン酸SAMを作製し、基板を130℃、180℃まで加熱し、加熱前後の表面をXPSにより分析した。その結果、アルキルホスホン酸の場合には、加熱により、分子の一部が脱離していたが、フッ化アルキルホスホン酸の場合には、分子はほとんど脱離せず、フッ化アルキルホスホン酸の方が熱的に安定であることがわかった。 SAMの摩擦特性評価を行うため、SS材表面上にアルキルホスホン酸SAMを作製し、ピン・オン・プレート摩擦試験機を用いて摩擦試験を行った。比較としてSAMを修飾しないSS材表面を用いた。荷重9.8mNおよび98mNで行った結果、9.8 mNの場合に、SAMを修飾した表面の方が、SS材のみの表面よりもわずかに低い摩擦係数を示した。一方、より高荷重の98mNにおいては、SAMの有無に関係なくほぼ同じ摩擦係数を示し、摩擦によりSAM形成分子が脱離したと考えられる。今後は、分子鎖の構造、末端基の種類の検討とともに、他の基材についても検討を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
SAMの耐熱性については分子鎖の種類により違いがでることがわかり、計画通りに進展しているが、SAMによる低摩擦化の達成においては、やや遅れている。この原因として、SAMの評価に用いているX線光電子分光装置(XPS)の検出器が平成24年度に故障し、SAMの評価が予定通り進まなかったため、一部遅れが生じたものである。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度においては、平成24年度に遅れが生じているSAMの低摩擦化を引き続き行うとともに、耐食コーティング技術についても着手する。昨年度の分子修飾法を基にし、低摩擦・高耐摩耗性・耐熱性に加えて、高耐食性コーティングを目指す。さらに摩擦係数の制御性、耐久性を保持しつつ、耐熱性・耐食性を付与するための分子設計・コーティングの提案を行い、評価を行う。以上の過程を通して、コーティング手法への指針を立てる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度においても引き続き、X線光電子分光法・摩擦試験機・光学顕微鏡・共焦点レーザー顕微鏡・接触角計・赤外分光法などの現有の施設を使用するため、主な必要な経費としては、SAM形成基板となる鉄系試験片・試薬・高純度ガス・ガラス器具などの消耗品が挙げられる。試薬はSAM形成用試薬及び基板等の洗浄用として使用する予定である。また、研究成果普及び動向調査のため、国内の学会参加に加え、国際学会への参加のための旅費の計上を行っている。論文発表による成果普及も予定しているため、英文校閲の計上を行っている。
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