研究課題/領域番号 |
24760132
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
津田 伸一 信州大学, 工学部, 講師 (00466244)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 気泡力学 |
研究概要 |
ナノスケールの超微小気泡群の挙動に対する熱的非平衡性の影響解明を目的として,分子動力学計算および数理解析を実施した.具体的には,まずLennard-Jonesポテンシャルで模擬された流体を対象として,断熱極限系と等温極限系の二つの系に対する分子動力学シミュレーションをおこない,ナノスケールの超微小気泡群の成長形態を比較した.また数理解析として,気泡群の代表長さ(平均気泡径)が時間に対して示すべき乗則に注目し,その指数(成長速度指数)を評価した.このように,断熱極限系と等温極限系の二つの系を比較することで,熱的非平衡性の影響を評価したのが平成24年度の内容である. 結果として,少なくとも三重点に近い低温度場においては,成長形態ならびに成長速度指数の双方について,熱的影響は極めて小さいことが明らかとなった.具体的には,気泡群の成長形態は双方の系においてオストワルド成長と類似した粗大化を示し,また気泡群の代表長さについても,双方の系で時間の1/2乗でスケーリングされる傾向を示すことがわかった.すなわち,成長機構に対する支配的なメカニズムには差異が表れず,同じユニバーサリティークラスに分類されることを確認した.このことは,少なくとも低温度場で発生する超微小気泡群については,その挙動に対する熱的非平衡性の影響が非常に小さいことを示している. 一方で,臨界点に近い高温度場で発生する気泡については,少なくとも断熱極限系においては気泡が球形とは大きく異なる形状を示すとともに,オストワルド成長と類似した粗大化形態が明確には見られなくなることを確認した.このことは,熱的非平衡性よりも温度場という熱力学変数そのものが与える影響の方が大きいことを示唆しており,超微小気泡群の挙動に対して支配的な物理因子を特定するうえで重要な手掛かりが得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
断熱極限系と等温極限系の二つの系に対する分子動力学計算および数理解析をとおして,三重点に比較的近い低温度場においては,気泡の成長形態および成長速度指数の双方について,二つの系での差異が非常に小さいことがわかった.これは,少なくとも低温度場で発生する気泡については,次年度に予定していた弱温度制御系での解析をおこなうまでもなく,熱的非平衡性の影響は無視できるほどに小さいことを意味している.すなわち,24年度の段階で当初の目的は概ね達成されたことになり,結果として当初の計画以上に研究が進展したと位置づけられる.
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今後の研究の推進方策 |
24年度の研究で,高温度場においては気泡形状が球形とは大きく異なるため,これまで本研究で用いてきた代表長さの定義が単純には適用できないことがわかった.そこで25年度は,密度の自己相関関数を波数空間で評価する方法により,気泡形状に依存しない代表長さを新たに定義しなおす.この新しい定義を利用して,高温度場における気泡の成長速度指数を算出し,熱的非平衡性の影響評価を進める予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた大きな理由としては,当初購入予定であった物品(高速計算機)に関して学外の研究者から計算機の提供がありそちらで代替できたことが挙げられる.これらの未使用額も含めて,25年度の物品費については高速計算機の追加購入に,旅費については国際会議の発表にそれぞれ使用する.また,その他については,論文投稿費として使用する予定である.
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