ナノスケールの超微小気泡群の挙動に対する熱的非平衡性の影響解明を目的として,分子動力学シミュレーションならびに数理解析を実施した.具体的には,Lennard-Jonesポテンシャルで模擬される流体を対象として,断熱極限系と等温極限系,および低温度場系と高温度場系の各系に対する分子動力学シミュレーションをおこない,超微小気泡群の挙動を徹底比較した.また,気泡群の代表長さの時間発展則を反映するべき乗則の数値(成長速度指数)を算出する数理解析をとおして,熱的非平衡性の影響を定量的に評価した. 断熱極限系と等温極限系では,気泡群の挙動や成長速度指数に大きな差がない一方で,低温度場系と高温度場系では気泡群の挙動(特に気泡形状)に大きな違いがあることが,平成24年度の研究でわかった.そこで,平成25年度は気泡形状に依存せずに成長速度指数を評価できる数理解析手法を新たに導入したうえで再評価をおこなった.その結果,低温場と高温場の双方の系で1/2という成長速度指数が得られた.さらに,超微小気泡群のサイズ分布の時間発展則を連続体力学により理論解析した結果,同じく成長速度指数1/2が得られることもわかった. 研究期間全体を通じて得られた成果をまとめると,①超微小気泡群の成長過程に及ぼす熱的非平衡性の影響は小さく,むしろ温度という熱力学変数そのものの影響のほうが大きい②低温場と高温場では気泡形状は大きく異なるが,成長速度指数はともに1/2になるという普遍性が存在する③連続体力学に準拠した理論解析から成長速度指数1/2を理論的に導くことが可能,の3点に集約される.特に,超微小気泡群の挙動に対する熱的非平衡性の影響は小さく,一様な温度場のもとでのマクロなモデリングにより現象予測が可能であることを示せた点は,超微小気泡群の正確な挙動予測が工学的にも求められている中で,非常に意義深い成果である.
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