研究課題/領域番号 |
24760143
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
沖田 浩平 日本大学, 生産工学部, 准教授 (20401135)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 超音波治療 / HIFU / マイクロバブル / キャビテーション / 数値解析 |
研究概要 |
マイクロバブルを援用した集束超音波治療に対する物理モデルの高精度化として,シェル気泡の周囲組織の弾性の影響を考慮したシェル気泡モデル(Qin & Ferrara, 2010)を導入し,気泡の半径運動に対する熱的減衰効果の次元縮約モデル(杉山ら,2005)を前述のシェル気泡モデルに適用した.そして,マイクロバブルを含む生体ファントムを用いた集束超音波治療のin vitro実験に対応した数値解析によってモデルの妥当性について検討した.その結果,気泡の体積率が10^-7~10^-6と大きくなるにつれて発熱量が大きくなることを確認した.しかし,体積率が10^-5まで大きくなると,ゲル中を超音波が伝播する過程で大きく減衰し,治療の目的部位よりも手前が加熱されるという結果を得た.このような現象はin vitro実験でも観察されており,本研究のモデルおよび数値計算が定性的に妥当であるといえる.次に数値計算によって周囲組織や気泡のシェルの弾性の影響について検討したところ,弾性が大きくなると体積率が10^-5と大きい条件においても,治療の目的部位が加熱できる結果を得た.これは,弾性が大きくなるにつれてシェル気泡の振動が抑制され,超音波の伝播過程における減衰が小さくなったためである.また,圧力振幅が大きくなるにつれて,気泡の半径運動の非線形性により弾性が大きい場合の方が小さい場合よりもシェル気泡の発熱特性が向上し,目的部位の加熱効率が大幅に向上するという結果も得られた.これらより,圧力振幅が小さい超音波伝播過程では発熱が小さく,圧力振幅が大きい焦点近傍において発熱が大きくなるようなマイクロバブルを設計することによって,治療の目的部位をよりロバストで効率的に焼灼できることが数値解析により示された.これは診断用として用いられているマイクロバブルを治療用として新たに開発する上で重要な知見である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
物理モデルの高精度化として,周囲組織の弾性を考慮したシェル気泡モデル,気泡半径運動に対する熱的減衰効果の次元縮約モデルの適用,および,2次元円筒座標系における解析によってモデルの妥当性の検討については予定通り実施することができた.一方,数値計算の効率化としてOpenMPを用いたスレッド並列による並列化を実施した.しかし,音場と相互作用するマイクロバブルの半径運動の振舞いが音圧によって異なるために,アダプティブな時間積分に要する計算時間にばらつきが生じて並列効率が低下するという結果を得た.研究計画ではこれに対して気泡の半径運動の時間積分の計算の分配によってロードバランスの均一化を行う予定であったが,実施に至らなかった.これは,前述の物理モデルの高精度化において,in vitro実験との比較によるモデルの妥当性の検討においてパラメトリックな解析に時間を費やしたためである.
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今後の研究の推進方策 |
前年度から継続して,1.大規模な三次元計算に向けた並列化と並列効率の向上としてロードバランスの均一化について検討する.そのうえで,2.グラフィックチップもしくは数値計算のためのコプロセッサ等の利用による計算速度の向上を行う.また,現実的な問題に対する解析として,3.微小血管網に沿った気泡分布を作成し,4.アレイトランスデューサによるマイクロバブルを気泡核としたキャビテーション加熱領域の位置制御に関する数値解析を実施する.これらを効率的に行うために,小規模な2次元計算によって十分な検討した上で,微小血管網の三次元モデルを用いた大規模な3次元計算を行う.さらに,最終年度である今年度は,研究成果についても随時学会等で発表し,ご批判を頂き,研究の方向性を再検討するだけでなく,国内外に研究成果を論文として発表し,研究代表者個人のWeb ページにおいて本研究の研究成果を社会・国民に発信する.
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次年度の研究費の使用計画 |
グラフィックチップもしくは数値計算のためのコプロセッサ等を利用した数値計算の高速化のために,前年度に購入した計算機に高性能な演算ボードを付加する.また,コンパイラ等アプリケーションソフトの購入のための消耗品費を考慮している.本研究は,研究代表者が1人で行うものであるため,国内外の学会に積極的に参加し,研究の成果発表を通して研究の方向性について検討するとともに,情報収集が必要であると考えて旅費を考慮している.また,最終年度には,研究成果を国内外に論文として発表するための経費を考慮している.
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