研究課題/領域番号 |
24760162
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
柿本 益志 静岡大学, 工学部, 准教授 (50336004)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 生体熱工学 / 非定常温熱環境 / 温冷感 |
研究概要 |
本研究は,非定常温熱環境下における熱的快適性の定量評価法の確立を目的としているが,平成24年度はその基礎的研究として,環境温度が非定常変動する空間での人間の生理学的特性(体温,血流量など)と過渡温冷感挙動(寒暖の感覚)の相関を実験的に解明することを試みた. 静岡大学工学部内に設置された温熱環境室において,室温を一定温度に保った状態から,任意の変化速度で室温を低下させ,目標温度に達した後に再び室温を初期温度まで上昇させるような温度制御を行い,その際,室内の被験者に温冷感の時間変化を申告してもらうとともに,皮膚表面温度を測定した. 温冷感の申告方法として,1.決まった時刻(例えば1分おき)に,前回の申告時よりも暑く感じたら+1,寒く感じたら-1を申告してもらう方法,2.申告時間を設けず,直前の状態よりも暑く感じたら+1,寒く感じたら-1をその都度申告してもらう方法を用いたが,申告法1では時間に対する温冷感の解像度が低く,また申告法2では温冷感レベルの解像度が低く,室温変化速度の違いによる温冷感挙動の変化を捉えることができなかった.そこで,申告法2を改良し,従来のPMVスケールのように温冷感を+3から-3までの7段階で評価する新たな申告法を導入するにより,温冷感の非定常挙動を精度よくトレースできるようになった. 新たな申告法で実験を行った結果,実験前と実験後では室温は同じにもかかわらず,温冷感レベルには違いが生じることがわかった.すなわち,多くの被験者において,実験前の温冷感レベルよりも実験後の温冷感レベルの方が低くなる傾向がみられた. また,従来,環境温度変化に対して,皮膚表面温度変化と温冷感変化との間には時間遅れが生じるという報告がなされていたが,本実験においては有意な時間遅れは認められなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の目標であった,非定常温熱環境下における生理学的特性と過渡温冷感挙動に関する実験的検討については,被験者数は若干少ないものの,その定性的な傾向を把握することができ,概ね目的を達成できたと考える. また,非定常温熱環境下での温冷感の非定常挙動をより正確かつ高分解能でトレースできるよう,蓄積した実験データに基づき温冷感申告方法を改良したことにより,実験の精度も向上している.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に引き続き,非定常温熱環境下における生理学的特性と過渡温冷感挙動に関する実験および定量評価を行う.被験者数を増やし,過渡温冷感の非定常挙動の更なる解明に取り組む. 実験と平行して,血流ならびに体温調整機能を考慮した生体伝熱モデルを構築し,環境温度の変動に伴う生理学的特性の挙動を高精度で予測する方法を確立する.生体伝熱モデルは,従来広く用いられている全身分割モデルをベースに構築する.全身分割モデルとは,人体を複数の部位に分割して各部位同士を血管系で連結させるモデルであるが,従来のモデルでは動脈と静脈は周囲組織と熱交換をするためのヒートソースとしてのみ取り扱われており,血管中の血液の流れは考慮されていない.また,体温調整に重要な役割を果たす毛細血管網は単なる一本の血管として表現されているため,外気温度の変化に伴い皮膚表面近傍の毛細血管が収縮・膨張し,外部への放熱量が調整されることによって体温が保たれるという体温調節機構が正しく組み込まれてない.そこで,比較的直径の大きな動脈・静脈層をマクロスケール,血管径の小さい毛細血管・生体組織層を多孔質近似して局所体積平均を施した部分(以下,組織相)をミクロスケールとし,それぞれのスケールに対応した血流場の運動方程式とエネルギー方程式を連成することにより,血流の影響を考慮した生体伝熱モデルを構築する.環境温度変化に対する毛細血管の膨張・収縮については多孔質体の透過率の温度依存性として取り扱うことにより,複雑な体温調整機構を簡単かつ正確に表現することができ,体温および血流量の高精度な予測が可能となる.実験で得た生理学的特性と比較することにより,人体伝熱モデルの妥当性を評価する.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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