研究課題/領域番号 |
24760164
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
保浦 知也 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00324484)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 熱工学 / 乱流 / 熱物質輸送 / 風洞実験 / 濃度変動計測 |
研究概要 |
本研究の目的は,はく離・再付着を伴う複雑な強制対流乱流場を,スカラー場の重ね合わせに着目して実験的に明らかにすることである。そのために,温度場や濃度場などのスカラー場が,速度場に対して受動的と見なせる強制対流場を風洞実験によりシミュレーションし,重ね合わせの原理に立脚して素過程を明らかにし,強い乱れを伴うはく離・再付着乱流における熱や物質の移流拡散現象を解明する。本年度は以下の2点について研究を進めた。 (1) 温度変動と速度変動の同時測定技術の開発 はく離・再付着乱流における速度と温度変動の同時測定を実現するために,レーザ流速計(LDV)と温度センサ(細線熱電対または抵抗線温度計)を組合せる必要がある。また,LDV計測のために流体中に混入するシーディング粒子が温度センサの応答を低下させることが問題である。そこで,この温度センサの応答遅れはディジタル信号処理により応答補償し,この温度センサと後方散乱型2成分LDVを組合せた同時測定技術を開発した。本手法の有効性を検討するために加熱平板上を発達する乱流境界層にて乱流熱流束を測定し,既存の実験および数値シミュレーション結果と比較して妥当な結果が得られていることを明らかにした。 (2) 壁面加熱条件が変化する乱流境界層の温度場特性の解明 本研究で開発した速度と温度の同時測定技術を用いて,低乱風洞内で加熱された平板上を発達する乱流境界層の速度場と温度場の相関特性が,壁面加熱条件の変化に対してどのように応答するかを実験的に調べた。壁面が流れ方向にステップ状に加熱される場合は,十分に発達した速度場中を温度場が発達する温度場助走区間となり温度境界層が薄いものの,流れ方向速度と温度変動の相関は通常の負値を保つ。一方,壁面がステップ状に冷却される場合には,この相関は,全面加熱条件での負値とは異なり,壁近傍で正値となることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
温度変動や濃度変動などの乱流スカラー量を高い精度で定量的に計測するために,使用する温度および濃度センサの応答を理論的,数値的に解析し,風洞実験により実証する必要がある。現在の所,いずれのセンサにおいても基本的な応答性能の評価はすでに完了しており,これらの応答特性をもとにして,より応答速度の速いセンサを実現するためにディジタル応答補償を適用している。温度センサ(細線熱電対または抵抗線温度計)についてはこの応答補償技術は確立している。一方,濃度変動測定のために開発した高速FIDについてはより高速な応答特性を得るための検討が途中であり,課題は残されている。なお,乱流熱流束や乱流物質流束を測定するためには,速度センサとの組合せが必要であるが,現時点では,基本的な2次の相関量については測定可能となっている。以上の理由から,研究の目的はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
測定手法がほぼ確立したので,今後は2次元加熱丘モデルの各種伝熱壁を設計・製作し,熱的境界条件の異なる乱流温度場を重ね合わせ原理にもとづき調査し,はく離・再付着を伴う複雑乱流場の性質を定量的に明らかにする。また,濃度場における重ね合わせについて検討するために,様々なシュミット数を有する拡散物質の乱流諸量を測定する。 (1) 2次元加熱丘モデルの伝熱壁の設計と製作: 2次元丘モデルを構成する伝熱壁として,等温壁,等熱流束壁,断熱壁を使用する。伝熱壁の熱的応答は流体運動と連成して複雑な特性を示すことから,理論的な検討と性能予測を含めて,設計・試作を繰り返して所望の伝熱壁を実現する。 (2) 2次元加熱丘モデルの実験(速度場,温度場の測定とデータ解析): 速度場,温度場の乱流諸量を収集する。まず等温の伝熱壁に限定して実験を進め,これ以外の伝熱壁(等熱流束と断熱条件)については,模型が完成しだい順次進める。 (3) 2次元丘モデルの実験(濃度場の測定とデータ解析): 2次元丘モデルの上流でエチレンなどの物質を点源供給し,濃度場を計測する。種々の拡散物質を個別に拡散した場合,混合気体を拡散した場合について,温度場と同様に重ねあわせ原理を適用する。上述の系統的な実験により,温度場および濃度場の重ね合わせ原理を鍵として,2次元丘モデル周りの熱物質輸送現象の支配要因を特定し,スカラー場の特性を制御するための方策を見いだす。 (4) 実験データベースの構築: 本研究の成果が伝熱制御や乱流予測の研究開発の参考資料として利用できるようにデータベースを構築するとともに,成果を積極的に公表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
2次元加熱丘モデルの製作とこれを風洞内に設置するための実験装置材料費,加工・製作費に研究費を使用する.また,温度センサを製作するための素線(極細熱電対および抵抗線)の材料費,画像処理流速計による速度ベクトル算出に必要となるPIV処理ソフトウェア,物質拡散実験のための各種ガス(エチレン,水素など)が必要である. その他の経費として,国内での成果発表と,学術誌に投稿するための英文校閲費,掲載費などが必要である.
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