研究課題/領域番号 |
24760168
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
迫田 直也 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30532337)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 水素 / 混合物 / 超臨界流体 / 熱物性 / 状態方程式 |
研究概要 |
水素混合流体の熱力学性質を表すために,3次型状態方程式の1つであるPeng-Robinson式(PR式)を用いて,水素を第一成分とし,メタン,エタン,プロパン,二酸化炭素を第二成分とする4種類の二成分系を対象として,分子間相互作用パラメータを決定した.通常,分子構造がシンプルな炭化水素の二成分系混合流体の臨界曲線は,温度-圧力あるいは組成-圧力線図上において,構成する成分物質の臨界点を結ぶような連続した曲線として表されるが,水素を主成分とするこれら二成分系の場合,第二成分から出発した臨界曲線は水素の臨界点に収束せず,高圧域へと発散する.この場合,臨界点を持たない組成が存在するなど,相変化を含めた熱力学的な挙動は非常に複雑になる.本研究では,分子間相互作用パラメータを温度の関数にするとともに,第二成分の臨界温度を用いてパラメータを一般化した.さらに,対応状態原理を基にして混合物の臨界点実測値にフィッティングさせることで,パラメータの係数を決定した.一般化によりすべての二成分系について同時にフィッテイングを行い,相互の実測値の不足を補うことができる.このPR式は臨界曲線の発散を再現できるだけでなく,相平衡についても実測値と良好に一致した.混合物の臨界点は,熱力学的に安定限界上の安定点として決定されるが,計算過程が非常に複雑であるため,これまであまり計算されることがなかった.本研究では,特異な臨界曲線を持つ系について対応状態原理が適応可能であることを示した.また,作成したPR式を用いて誘導状態量についても計算を行った.逆行凝縮現象が現れる減圧過程で,出現する相の密度およびエンタルピー変化について明らかにすることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,水素混合流体(水素 + メタン,エタン,プロパンおよび二酸化炭素の二成分系)の状態方程式を3次型のPR式を用いて作成することができた.分子間相互作用パラメータは従来の研究で多く用いられてきたように,相平衡実測値を基にして各二成分系で固有の値を与える予定でいた.しかし,パラメータを臨界温度を用いて一般化することで実測値の不足部分を補うことができた.さらに混合物についても新たに対応状態原理を適用させて,臨界曲線のみにフィッティングさせることを試みた.この結果,相関に用いていない相平衡についても実測値に対し十分な再現性が得られた.状態方程式開発ではこのように当初の計画よりも良い結果を得ることができたため,Journal of Thermal and Science Technology誌に投稿して,現在査読中である.この状態方程式作成により実験装置の詳細設計が可能になった.本研究で導入予定の装置は独自開発を行う.H24年度では実際に装置を製作し,導入するまでには至らなかったが,概ね設計を終え,H25年度早々に製作に着手する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,独自に設計した装置を製作の段階に移行させる.水素と二酸化炭素の混合系を対象として,臨界近傍の現象が観察できる装置を製作する.また別途,膨張容器を備え,減圧過程における試料の状態変化を観察するとともに,膨張比を予め検定しておくことで密度の測定も可能となる.臨界点近傍での実測値は温度,圧力,組成に関して報告されているものの,密度に関する実測は少なく,貴重なデータとなり得る.また得られたデータを用いて作成した状態方程式の評価を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では状態方程式の作成と実験による検証を行う.H24年度では状態方程式作成を優先させ,さらにH24年度導入予定の圧力容器に関しては,可燃性ガスである水素を扱う関係から,設計した容器が高圧ガス保安法上,別途規制が加わることが明らかになったため設計の修正が必要となり次年度への繰越金が生じた.現在では圧力容器の再設計が概ね完了したので,当初の計画通り繰越金と次年度の研究費を合わせ,臨界現象観察のための光学セル付高圧容器と観察窓付恒温槽の製作を予定している.その他消耗品として試料ボンベおよび,ボンベと圧力容器を接続する配管部品類を計画している.
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