研究課題/領域番号 |
24760171
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
小糸 康志 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (70347003)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | ヒートパイプ / 熱サイフォン / 熱輸送 / 伝熱促進 / サーマルマネージメント / 電子機器冷却 / 電子基板 / 複合基板 |
研究概要 |
電子機器の冷却には,従来からヒートパイプが実用されている.一方,発熱量の増大によって,電子基板の伝熱促進も要求されている.本研究の目的は,電子基板に小さな溝を掘り,そこにヒートパイプを形成して潜熱輸送を行う“マイクロヒートパイプ複合基板”を開発することである. 本年度は,第一段階として,電子基板と同様に熱伝導率が低いアクリル板を用い,その表面上に熱サイフォン式のヒートパイプを形成して,伝熱特性に関する基礎実験を実施した.まず,アクリル板の表面に断面5.0mm×5.0mmの溝を長さ120mm掘り,銅板で蓋をして熱サイフォン式のヒートパイプを形成した.作動液には水を用いた.次に,加熱・冷却実験を実施し,ヒートパイプの作動特性を評価した.実験条件として,冷却水温度を15℃とし,加熱量を3.0W,6.0W,9.0W,作動液封入量を10%,20%,30%と変化させ,ヒートパイプの加熱部と冷却部ならびにこれらの間の断熱部の温度を熱電対で測定した.比較検討のため,ヒートパイプに作動液を封入しない場合についても同様に実験を行った. 実験結果から,作動液の相変化による潜熱輸送の効果を確認することができた.すなわち,作動液を封入しない場合と比較すると,作動液を封入した場合,ヒートパイプの加熱部で作動液が蒸発・沸騰する様子を観察でき,加熱部と冷却部の温度差が大幅に小さくなることがわかった.また,加熱部と冷却部の温度差は加熱量のみならず作動液封入量にも依存しており,本実験範囲においては作動液封入量が10%のとき,温度差が最小となった.さらに,ヒートパイプの簡易数値モデルを構築し,有効熱伝導率を評価した.本ヒートパイプの有効熱伝導率は最大で1630W/(m・K)であり,銅の熱伝導率よりも非常に高い値を示すことがわかった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,アクリル板の表面上に熱サイフォン式のヒートパイプを形成し,伝熱特性に関する基礎実験を実施した.当初は,作動液の還流に微細構造体の毛細管力を利用する計画であったが,第一段階として潜熱輸送の効果を検証することを優先し,重力を利用して作動液を還流させる熱サイフォン式のヒートパイプを形成した.なお,本ヒートパイプは当初計画通り,数mmサイズの発熱体を冷却対象としたものである. ヒートパイプの製作,その伝熱特性を評価する実験装置の構築ならびに実験の実施を通して,ヒートパイプによる潜熱輸送の効果を確認することができた.また,ヒートパイプの数値モデルを構築し,その有効熱伝導率を評価した.なお,並行して微細構造体の形成に関する研究も進めており,本ヒートパイプに微細構造体を組み込む準備ができている. 以上の研究進捗状況から,研究目的の達成度について「おおむね順調に進展している」と評価した.
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果を踏まえ,毛細管力および自励振動を利用したマイクロヒートパイプ複合基板の開発研究を実施する.前者は数mmサイズの発熱体を,後者は数cmサイズの発熱体を冷却対象としたヒートパイプである. ヒートパイプの製作後,加熱・冷却実験を実施して作動特性を評価する.初年度の段階で,加熱・冷却実験を実施する基本的な実験環境が整えられているため,これを利用する.温度分布の経時変化からヒートパイプの作動安定性を確かめ,加熱部と冷却部の温度差および伝熱量から,ヒートパイプの熱コンダクタンスを求める. さらに,熱コンダクタンスを大きくするよう,ヒートパイプの最適化を図り,ヒートパイプの無い通常の基板との比較検討,ならびに,本複合基板の有効熱伝導率についての検討も行う. 最後に,毛細管力と自励振動を利用したマイクロヒートパイプ複合基板について,冷却対象の相違を踏まえた上で,両者の熱輸送特性を比較する.以上の研究成果をまとめ,公表する計画である.
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(B-A)は,デジタルマイクロスコープ(初年度購入物品)のスペックを絞り込むことにより生じたものである.今後,この研究費は温度測定装置の購入に充て,毛細管力と自励振動を利用したヒートパイプに関する研究を並行して進めることができるようにする計画である. また,翌年度分として請求した助成金については,当初計画通り,物品費(実験用消耗品の購入),旅費(国際会議での成果発表),人件費・謝金(実験補助)に使用する計画である.
|