本年度の研究業績として以下の成果を得た. 初期角運動量が零でない状況での2つのリアクションホイールを用いた衛星の姿勢制御問題に対して,前年度まで角運動量保存則に基づく運動学モデルを対象に研究を進め,平衡点集合に含まれる目標姿勢については姿勢安定化制御則を,それ以外の姿勢についてはアンテナ指向制御則を構築してきた.実環境を考えると太陽輻射圧トルクや,重力傾斜トルクなどの外力トルクが存在する.これらは極めて微小であり短期的には問題にならないが,長期運用においてはこれらの影響が積分され角運動量として現れる.本年度は,このような外力トルク存在下に対しても提案手法が適用できるよう,(1)動力学モデルにおける制御則の構築と(2)モデル化誤差に対する適応的制御手法構築という2つの方向性で制御則の拡張をおこなった. (1)制御則の中で外力トルクを陽に扱うためには,外力トルクの影響が陽に現れる動力学モデルを考える必要がある.そこで本年度はこれまで運動学モデルに適用していた制御則を動力学モデルに適用できるよう拡張した.アンテナ指向制御則については単純な拡張によって制御可能であることを示した.また姿勢安定化制御則については入力に対する独立性が崩れる問題から単純な拡張が不可能であることを明らかにした.この問題については階層型線形化という新しい線形化制御手法を考案,適用することで動力学モデルにおいても同様に制御可能であることを示した. (2)外力トルクによる影響をモデル化誤差とみなすことで,角運動量の変動をモデルパラメータの推定問題として捉え直した.その結果高い精度でのアンテナ指向制御が実現可能であることを示した. さらに提案制御則は非線形な入力変換に起因する特異姿勢が存在する.この問題に対して,拘束条件を陽に考慮できるモデル予測制御を組み合わせることで特異姿勢を回避しつつ目的を達成する制御則を構築した.
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