研究課題/領域番号 |
24760195
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
河本 浩明 筑波大学, サイバニクス研究コア, 助教 (00400713)
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キーワード | ウェアラブルロボット / 機能回復 |
研究概要 |
脳血管疾患,脊椎損傷,寝たきりなどによる手の麻痺等の機能障害は,下肢に比べ実用的レベルにまで回復することが難しく,患者のQOLを著しく低下させる要因となっており,効果的な運動機能回復が重要な課題となっている.本研究では,手指関節機能(掌屈・背屈運動)に障害をもつ方を対象に,人間と機械を複合融合させる装着型ハンドを活用し,効果的なリハビリテーションための脳の可塑性に基づいた運動機能再建支援システムを開発することを目的とする. 障害を持つ方の運動機能の再建を脳の運動学習として捉える考え方が注目され始めている.脳の運動学習は大まかに3つの段階で捉えることが出来る.第一段階:感覚器から運動中枢への入力(求心性入力)によって,【脳機能が再構成される段階】.患者自らの動作は要求せず他動的な動作で実施される.第二段階:運動中枢から筋へ運動指令が試みられる【運動指令の試行段階】.第三段階:フィードバック情報を基に運動指令が修正され運動が完成していく,【運動指令が形成される段階】.第二段階,第三段階は患者の自らの能動的な動作で実施される. 本研究は,これまでの受動的動作のみの訓練方法とは異なり,ロボット的自律制御と随意制御を活用することにより,上記の求心性入力による運動中枢の機能再構成(第一段階),随意的な運動指令の試行(第二段階),及び運動指令の形成(第二段階)を効果的に行うものである. この,他動的動作(自律動作)と能動的動作(随意動作)を融合させた手指関節トレーニングは,これまでのところ研究事例がなく,人の運動学習過程に沿って,脳機能の可塑性をロボット技術が効果的に引き出す有益な知見が得られることが期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,まず,第一段階として,装着型ハンドの自律制御機構による受動的動作パターンを繰り返すことにより,装着者の筋,靱帯,関節の受容器の刺激から,運動中枢系へ求心性入力を継続的に送り続けることで脳神経系の機能的再構成を促進させていく.第二段階では,受動的動作の中で,装着者は随意的な運動を意識して動作を試みることによって,運動中枢から手指関節動作に必要な運動指令の試行が期待される.第三段階では,自律制御機構と随意制御機構を混在して適用し,試行された運動指令を基に,随意制御機構による能動的動作の割合を徐々に増やしていくことで運動指令の形成が期待される.本研究では以下の研究項目を設定することで,本研究の目的を達成する.(1)装着型ハンド機構の開発,(2)受動的自律制御機構の開発,(3)運動指令を試行する動作呈示インタフェースの開発,(4)運動指令を形成する随意・自律制御複合機構の開発,(5)実証試験による評価.当該年度は以下の項目を実施した. (1) 装着型ハンド機構の開発:手指関節の解剖学的に親和する外骨格機構を開発するため,作業療法の知見に基づいたアシストを可能にするアクティブジョイント機構の改良を実施した. (2) 受動的自律制御機構の開発:健常者による評価試験から課題抽出を行い,改良を実施した. (3) 機能再構成及び運動指令を試行する動作呈示インタフェースの開発:脳機能再構成をさらに促進するための求心性入力として,ピン刺激,擦過刺激が可能な体性感覚入力インタフェースを開発した. (4) 運動指令を形成する随意・自律複合制御機構の開発: 生体電位信号をトリガー信号として扱い,(2)で開発した運動パターンを生成することで随意的な運動意思に基づいて動作する制御手法の開発に取り組んだ. (5) 実証試験による評価:実証試験プロトコルの作成し,評価手法となるエンドポイントを設定した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では研究項目で設定した (1)装着型ハンド機構の開発,(2)受動的自律制御機構の開発,(3)運動指令を試行する動作呈示インタフェースの開発,(4)運動指令を形成する随意・自律制御複合機構の開発,(5)実証試験による評価,に対して最終年度として(4),(5)の項目内容を主に実施し,当該研究をまとめる. ・本研究でこれまで開発したきた装着型ハンド機構に対して,「運動指令を形成する随意・自律制御複合機構」を組み込み,手指機能再建のための装着ハンドシステムとしてプロトタイプを開発・改良を実施する. ・装着ハンドシステムの基本性能評価として,手指機能再建に要求される性能や要求事項の妥当性を確認する. ・作成されたプロトコルに基づき評価試験を実施し,本システムの有用性を検証する.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究知見によって,今後プロトタイプの開発・改良によって性能向上が見込まれた.本プロトタイプの開発・改良を優先的に実施するため,次年度の開発費を当初の計画よりも多く計上することを考慮し,本年度の使用額を柔軟に調整した. 26年度は,制御系を組み込んだ装着ハンドシステムのプロトタイプの開発・改良にかかる経費として,備品費,消耗品費(電子・機械部品,材料,アクチュエータ,加工他)及び,評価実験用の生体電極などを計上している.また,当該研究で得られた知見や成果の発表,及び当該研究の情報の収集として,国内学会,国際会議の旅費の参加費用を計上している.その他として,研究資料,論文投稿費を計上している.
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