研究課題/領域番号 |
24760197
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
田中 博人 千葉大学, 千葉大学 上海交通大学国際共同研究センター, 特任助教 (80624725)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 羽ばたき飛行 / ハチドリ / ホバリング / 生物規範工学 / バイオミメティクス |
研究概要 |
今年度はスマート羽ばたき翼の規範とするために,ハチドリを飼育する多摩動物公園の協力により,実際のハチドリのホバリング飛行中の翼形状を計測した. 4 台の高速度カメラで同期撮影することで,少なくとも 2 方向から同時に画像を取得し,翼の特徴点(付け根,翼端,羽軸の端点)の 3 次元座標を再構成した.その結果,各羽根の広がり角によって翼面積が時間変化すること,翼面のフェザリング変形(ねじれ)の時間変化に関して打ち下ろしと打ち上げに非対称性があることを明らかにした.この計測結果に基づき,カーボンロッドフレームとたるみを有する翼膜からなる羽ばたき翼を試作し,羽ばたき機構で翼面形状と推力を計測した.その結果,たるみ翼面によってハチドリの打ち下ろし中の翼面変形に似た翼面変形を実現した.また,そのときの推力は計測したハチドリの体重とほぼ一致した.これにより,受動的な翼面変形でハチドリ規範の羽ばたきを実現できることが示唆された.この成果の一部は国内学会で発表し,国際学会に投稿,査読中である. 受動的に変形する翼面が飛行安定性に与える影響を調べるために,柔軟なフィルム翼を有する市販の赤外線操縦羽ばたき飛行機を用いて,前進飛行中の吹上突風に対する応答を調べた.計測した翼面変形と飛行運動に基づき,共同研究者の劉(千葉大)の開発した数値解析コードを用いて,翼変形の有無による安定性を数値シミュレーションで比較した.その結果,機体のピッチング運動に関して柔軟な翼の方が大きな静安定性を示した.これはハチドリのホバリング飛行においても観察された翼面の柔軟性が飛行安定性を向上させている可能性を示唆する.この成果は国内学会で発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では予定していなかったが,実際のハチドリの計測が多摩動物公園との共同研究の実現によって可能となり,規範となるハチドリの詳細な計測データが得られたのは大きな成果である.さらにその結果に基づいて羽ばたき翼の試作を行い,規範としたハチドリの体重に一致する推力が得られたことは,生物規範というコンセプトの妥当性を示したという点で需要な成果である.さらに,当初計画に追加して翼面変形の飛行安定性に与える影響を調べる実験も行い,柔軟な翼面が飛行安定性を向上させることを示唆する結果を得られたことは,大きな成果である. 一方,実際のハチドリの計測や安定性に関する実験を行ったため,当初計画にあった製作した翼の剛性分布の計測実験は次年度に行うこととした.総合的に見て研究は順調に進んでいるといえる.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に製作した翼を発展させ,推力および効率を最適化するような剛性分布の羽ばたき翼を設計,製作する.剛性分布は翼外縁のフレームや翼面内の追加フレームなどで与える.製作した翼の剛性分布は静的荷重試験と動的振動試験で評価する.そのためにロードセルや精密ステージ,加振機などを購入する.羽ばたき翼の推力の計測には初年度に用いた固定電動羽ばたき機構を用いる.次年度にはさらに効率を計算するために入力電流と入力電圧を計測するためのオシロスコープや電流プローブなどの電流電圧計測機器を購入する. 製作したスマート羽ばたき翼の飛行安定性に対する影響を調べるために,自由飛行可能なハチドリサイズの電動羽ばたき機に搭載し,高速度カメラを用いた運動解析を行う.羽ばたき機の製作は,共同研究者の劉らが製作した電動羽ばたき機を基に再設計する. これらの研究を通して,ハチドリサイズの羽ばたき飛行体におけるスマート羽ばたき翼の基本構造と機能を確立する.成果は国内外の学会と論文誌に発表する.
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次年度の研究費の使用計画 |
参加した国際学会の開催地が今年度は日本国内であったため,今年度は当初計画していたよりも旅費の支出額が小さくなった.これに伴う次年度研究費の使途として,今年度から次年度に移行した翼剛性分布計測実験用のセットアップ(ロードセル,精密ステージなど)の購入にあてる.
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