研究課題
次世代半導体デバイスの実現には、電気的に活性な不純物原子をナノスケールの精度で空間的に配置することが求められる。本研究は、異種原子の共注入による不純物位置制御を目指し、それに影響を与える異種原子で形成される超微小複合クラスターを3次元アトムプローブ法と半導体同位体による超構造を組み合わせて従来にない高精度で観察し、これらの不純物間の相互作用を解明し制御することを目的とするものである。さらに、電気的特性と対応させて複合クラスターの深さ位置における活性化への寄与を明らかにするとともに、異種イオン共注入時に導入される欠陥が活性化に与える影響も明らかにし、活性不純物位置制御の重要な知見に繋がる指導原理を得ようとするものである。本年度は、シリコン基板を用いた共注入実験において、炭素とホウ素の組み合わせに着目し、熱処理を施すことで炭素とホウ素が複合クラスターを形成することを3次元アトムプローブ法による実空間解析で明らかにした。さらに、拡がり抵抗測定法で得られたキャリア分布と照らし合わせることによって、共注入した炭素がホウ素の電気的不活性化に寄与することを明らかにした。但し、3次元アトムプローブ評価において得られる3次元像は、深さ方向のスケールに任意性があるという特有の課題が残っている。そこで、原子層単位で平坦に製膜された同位体超構造試料が絶対的な深さ指標のものさしに利用でき、サブナノメートルの精度で不純物の実空間分布の取得が初めて可能となるとの着想から、同位体超構造試料(シリコン・ゲルマニウム)の設計及び3次元アトムプローブ測定を実施した。そして、この同位体超構造試料が共注入実験において深さ指標になり得ることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
これまで行った実験は以下の通りである。1)シリコン基板の表面から数十ナノメートル内の領域に異種不純物原子(本研究では、炭素とホウ素に着目)をイオン共注入して、熱処理を実施した試料を用意し、3次元アトムプローブ法で炭素-ホウ素の凝集体(複合クラスター)を観察した。当初の計画通りである。2)3次元アトムプローブ装置製造元の米国アメテック社の解析アルゴリズムを基に、シリコン中の炭素・ホウ素の複合クラスターの解析を行った。3)平成25年度の研究実施計画を前倒して、3次元アトムプローブ測定で炭素凝集近傍でのホウ素分布と、拡がり抵抗測定による電気的活性化分布と対応させ、複合クラスター深さ位置での活性化率を調べた。4)上記の実験と並行して、共注入試料の深さ指標となる同位体超構造試料の設計および3次元アトムプローブ測定を実施した。
本研究課題で最も重要な点は、ホウ素の電気的活性化に影響を与える炭素の挙動を高精度に調べることである。よって、炭素・ホウ素共にイオン注入条件を最適化することは必須である。これまで、3次元アトムプローブ法を用いてシリコン基板中に共注入したホウ素と炭素の挙動を調べ、炭素がホウ素の電気的活性に与える影響を明らかにしてきた。今後(平成25年度、最終年度)は、以下のように研究を遂行する。1)シリコン中の炭素・ホウ素原子間の相互作用を調べるため、これまで最適化したイオン注入条件を基にして、引き続き、集束イオンビームで針状試料を作製し、3次元アトムプローブ測定・データ解析を行う。過去の文献と比較し、ホウ素不活性化の機構を明らかにする。ここでは異なる同位体シリコンの超構造を利用して、深さ方向の元素分布の高精度化を図る。2)3次元アトムプローブ測定した試料の拡がり抵抗測定(深さ方向のキャリア密度分布測定)を実施し、アトムプローブのデータと比較し、議論する。3)同試料の透過型電子顕微鏡による観察で得られた欠陥分布と上記の結果を見比べ、炭素・ホウ素の複合クラスターと欠陥の分布の相関について議論する。また、陽電子消滅測定結果を行い、熱処理による結晶回復過程について明らかにする。4)平成24年度中に、シリコンと同族であるゲルマニウムの同位体超構造の3次元アトムプローブ測定に成功した。しかし、最適な測定条件(試料形状・レーザー強度・温度等)の発見には至っていないため、測定条件の最適化後、不純物イオン注入および熱処理を実施し、シリコンの場合と比較し、その差異を明らかにする。5)得られた結果を取りまとめ、国際誌での論文掲載や学会を通じて公表する。
主な経費は消耗品費で、3次元アトムプローブ測定用の電極(1個当たり450千円)である。そして、本研究課題にて最も重要なシリコン中の異種不純物間の挙動が見られる試料作製条件を見出すための特性分析を予定しており、これに305千円を計上する。旅費に関しては、東北大学金属材料研究所(茨城県大洗町)から半導体の同位体材料を所有する慶應義塾大学(横浜)の伊藤教授グループとの研究打ち合わせを計画している。また、国外・国内での学会発表および情報収集を行うため、成果発表旅費・調査研究旅費・研究打合せ旅費で390千円を計上する。また、論文誌への投稿を計画しており、研究成果投稿料として30千円を計上する。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
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http://wani.imr.tohoku.ac.jp/yshimizu.html
http://db.tohoku.ac.jp/whois/detail/bdade9d3e1da0c7a19d6872a59445e4e.html