研究課題/領域番号 |
24760247
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鷹林 将 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (00464305)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | グラフェン / ダイヤモンドライクカーボン / 電界効果トランジスタ |
研究概要 |
炭素同素体の一つであるグラフェンは、特異な線形分散バンド構造を有しており、200,000 cm^2/v sを超える高キャリア移動度を示す。この値はシリコンやガリウムヒ素・インジウムリンなどの既存半導体の数値を遙かに凌駕しており、現行の電子バイスの微細化限界を打破する材料として注目されている。 これら材料を代表的な電子デバイスである電界効果トランジスタ(FET)に応用する場合、ゲート絶縁膜材料との界面化学構造制御が最重要課題となる。グラフェンの場合、表面に剥き出しのπ共役結合軌道が存在するために、界面化学構造がキャリア移動度等の特性に非常に大きな影響を与える。さらに炭素質ゆえに、従来のSiO2等の酸化物系ゲート絶縁膜は、酸化ダメージのために適用できない。 代表者は以上の課題を解決するために、同じ炭素材料であるダイヤモンドライクカーボン(DLC)をゲート絶縁膜に適用することを試みた。 ただし従来のプラズマCVD製膜法は、グラフェン表面へのプラズマダメージのため適用困難である。そこで代表者は、基板への光照射によって発生する光電子を用いてプラズマを発生させる「光電子制御プラズマCVD(PA-PECVD)法」を用いて、グラフェン上へのDLC成膜を行った。本法は、従来の少数浮遊電子に大電力をかけて電子雪崩を引き起こさせてプラズマ発生させる手法とは異なって、光照射で多量に発生する光電子を利用するために、極小電力でプラズマを制御でき、グラフェンへのダメージを極小化できる。 PA-PECVD法を用いてDLCゲート絶縁膜グラフェンFETを作製したところ、グラフェン特有の良好なアンバイポーラを示した。ゲート長に対する相互コンダクタンスを検討したところ、HfO2等の高誘電率材料の場合と同等以上の性能が示された。微細化を推進していくことで、テラヘルツ級の動作周波数を有するGFETが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PA-PECVD法を用いて、グラフェン上にDLCゲート絶縁膜を形成することによって、電界効果トランジスタ(DLC-GFET)を作製した。このトランジスタは、グラフェンの大きな特徴の一つであるアンバイポーラ特性を再現しており、グラフェン上への製膜ダメージを極小化させること成功した。ゲート長に対する相互コンダクタンスを検討したところ、HfO2等の高誘電率材料の場合と同等以上の性能が示された。微細化を推進していくことで、テラヘルツ級の動作周波数を有するGFETが期待される。 このデバイスの化学組成を詳細に解析したところ、DLC/グラフェン界面の水などの酸素系吸着物によって、GFETのp型性が強くなることを発見した。すなわち界面化学構造制御によって、DLC-GFETのn・p両極性を制御できることが示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
GFETのn・p極性制御は、実際の光・電子デバイス回路応用に対して大きな進展をもたらす。極性発現のしきい値を制御することによって、CMOS様のスイッチング機能等が期待される。代表者は前年度成果の中で、DLC/グラフェン界面の吸着物化学構造によって、DLC-GFETのn・p極性を制御できることを示唆した。 しかしながら単純な界面吸着では、グラフェンの剥き出しのπ電子雲を傷つけることになって、移動度の著しい低下が懸念される。シリコンにおける成熟された技術であるイオン打ち込み技術も、構造の破壊をもたらしてしまう。 そこで代表者は今後の研究の推進方策として、既存のIII-V族系化合物半導体を用いた高電子移動度トランジスタ(HEMT)の変調ドープ構造に倣い、「δ-ドープDLCゲート絶縁膜構造」を有するGFETを提案する。 δ-ドープDLCは、グラフェンへのn・pドーピング能のある窒素・酸素原子ないしその化合物(アンモニアや水等)を、グラフェン/DLC界面から数nmだけ離れたDLC内部に集中的にドープさせることによって、界面近傍ヘテロ界面バンド構造制御して、量子力学トンネル効果を利用したドーピング(変調ドーピング)をグラフェンに対して行うなものである。これは、グラフェン/DLC界面を直接操作するものではないために、グラフェンの移動度を損なわないドーピングが可能である。PA-PECVD法は、通電量制御によってDLC膜厚を0.1 nmレベルで制御でき、極めて微細な構造制御が可能である。PA-PECVD法はδ-ドープDLC構造作製には極めて適した手法であり、本法を用いた革新的炭素電子デバイスの実現が期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
グラフェン基板として、SiC単結晶を引き続き使用する。SiC単結晶は2インチサイズで200,000円と高価なために、これを研究費で賄う。 PA-PECVD法装置の改良のために、関係真空部品を研究費で賄う。 50万円を超える装置・部品の購入は予定していない。
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