研究課題/領域番号 |
24760249
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山ノ内 路彦 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (40590899)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 電流誘起磁壁移動 |
研究概要 |
本年度は、外因性ピニングよりも内因性ピニングの弱い面内磁化膜の作製方法を探索した。外因性ピニングは、磁壁を移動するために必要な磁壁移動磁場に関係する。一方、面内磁化膜における内因性ピニングは、磁壁内の磁化方向を膜面内方向から膜面垂直方向に向けるために必要な困難軸方向の異方性磁場に関係する。これまでに面内磁化膜における電流誘起磁壁移動の研究では、パーマロイが多く用いられていた。しかし、磁壁移動磁場が数mTであるのに対して、困難軸方向の異方性磁場は約1 Tであり、困難軸方向の異方性磁場が磁壁移動磁場に比べて2桁程度大きい。したがって、本研究を行うためには困難軸方向の異方性磁場を低減し、かつ磁壁移動磁場を増加させた面内磁化膜が必要である。本研究では、困難軸方向の異方性磁場を低減するために、界面磁気異方性により垂直磁気異方性を示すTa/CoFeB/MgO積層膜に注目した。Ta/CoFeB/MgO積層膜においては、これまでにCoFeB層の厚膜化により、面内磁化膜となることが報告されている。CoFeB層膜厚の異なるTa/CoFeB/MgO積層膜を作製し、磁気異方性エネルギ密度のCoFeB層膜厚依存性を調べた結果、膜厚の増加とともに磁化容易軸方向が膜面垂直方向から膜面内方向に変化することを確認した。その磁化容易軸方向が入れ替わるCoFeB層膜厚付近、かつ面内磁化容易軸となるCoFeB層膜厚で、困難軸方向の異方性磁場がゼロに近づくと考えられる。磁壁移動保磁力は微細化とともに増加するため、同一ウェハ内でCoFeB層膜厚を変化させたTa/CoFeB/MgO積層膜を作製し、かつ細線幅を変えた素子を作製することにより、ウェハ内のいずれかの素子で外因性ピニングよりも内因性ピニングが弱くなる条件を満たすと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、内因性ピニング、及び外因性ピニングの強さの異なる面内磁化膜細線を作製し、磁壁移動の閾値電流の内因性ピニング、外因性ピニング依存性を明らかにすること、また、その知見をもとに外因性ピニングよりも内因性ピニングの弱い面内磁化膜細線を作製し、面内磁化膜細線において内因性ピニングを調べることを目的としている。本年度は、この目的を達成するための基礎である、内因性ピニング、及び外因性ピニングを制御し、外因性ピニングよりも内因性ピニングの弱い面内磁化膜細線を作製する方法を探索した。そして、同一ウェハ内でCoFeB層膜厚を変化させたTa/CoFeB/MgO積層膜を作製し、かつ細線幅を変えた素子を作製することにより、ウェハ内のいずれかの素子で外因性ピニングよりも内因性ピニングの弱くなる面内磁化膜細線が得る方法を見出した。当初の計画においては、電流誘起磁壁移動を確認するために面内磁化膜の細線を作製する予定であったが、本年度は面内磁化膜の作製方法の検討までとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に得られた知見をもとに面内磁化膜細線を作製する。過去の文献等で報告されている素子サイズ、素子構造を参考にして効率的に素子加工を進める。素子加工後、外部磁場によって磁壁を初期配置した後、電気的に磁壁を検出できることを確認する。ここで、電気的に検出が不可能であった場合には、磁気光学効果などの他の手法を用いて磁壁位置の検出方法を検討する。磁壁位置の検出方法を確立した後、電流誘起磁壁移動を観測する。外因性ピニングの大きさが不十分な場合には、強磁性膜中への不純物の導入や細線端へのノッチ作製により磁壁のピニングサイトを増加させ、磁壁移動磁場を増加させる。また、最近になって、Ta/CoFeB/MgO積層膜のような非対称な膜構成では、スピントランスファトルク機構以外の機構による電流誘起有効磁場が働くことが報告されている。磁壁移動速度の外部磁場依存性を測定し、電流誘起有効磁場の寄与が大きい場合には、対称な膜構成の面内磁化膜を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は作製した素子の特性を評価するために、今年度に購入した電子部品に加えて、ケーブル、プローブなどの高周波測定用部品を計上予定である。
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