研究課題/領域番号 |
24760251
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
有田 宗貴 東京大学, ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構, 特任准教授 (10596951)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 窒化物半導体 / 励起子ポラリトン / 微小共振器 |
研究概要 |
本研究は、III族窒化物半導体ナノデバイスの新しい作製技術を開発し、紫外発光素子の飛躍的な性能向上や新型素子の実現に向けた要素技術の確立に資することを目的とする。平成24年度は、アンモニア/水素混合雰囲気中熱処理によるIII族窒化物半導体の加工技術について、その基本的な性質に関する知見を得るとともに、それを利用して複数の窒化物半導体ナノ構造を作製した。具体的には、AlGaN混晶の熱分解速度について、そのAl組成依存性を詳細に調べた。Al組成ゼロ、すなわちGaNの熱分解は、0.10気圧、水素790cc/min、アンモニア7.0cc/min、窒素1150cc/min、温度1000℃の条件下において、-c方向に640nm/minというかなりの高速で進む。一方、Al組成が上がるにつれてこの分解速度は急激に減少し、Al0.05Ga0.95NではGaNの場合の約1/250以下に、Al0.13Ga0.87Nでは同約1/5300以下まで減少することを見出した。また、GaNの熱分解速度には顕著な結晶方位依存性が存在し、特定の条件下においては-c方向の分解速度がそれと垂直であるa方向への分解速度の100倍以上にも達する。以上の知見に基づき、垂直GaN/空気周期構造、水平AlGaN/空気DBR、自立薄膜転写誘電体多層膜DBR垂直微小共振器などの窒化物半導体ナノ構造を作製した。 本研究の成果は、ポラリトンレーザのみならず、フォトニック結晶やマイクロディスクといった様々なナノ・マイクロ光電子素子の作製に応用可能である。従来手法(プラズマエッチングや光電子化学エッチングなど)と比較して簡便でありながら結晶にダメージを与えないなど、数々の優れた特徴を有する本手法は、多様な窒化物半導体ナノ構造の作製技術の確立にも貢献しうるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載の研究計画に対して、以下の通りの研究成果を得るとともに一部の計画については内容を変更した。 1.アンモニア/水素混合雰囲気中熱処理エッチング技術を確立:エッチング速度および加工形状のガス供給条件/温度に対する依存性を明らかにした。また、AlGaNのエッチングについてAl組成依存性を中心に調べた。一方で、加工特性のドーピング濃度依存性については複数でシェアしている結晶成長装置のスケジュールの都合もあり未実施である。 2.垂直エッチング条件を援用してGaN壁アレイからなるGaN/空気DBRを作製:垂直エッチング条件を用いてGaN/空気周期構造を作製した。顕微反射率測定は構造の大きさによる制限があり容易ではないことが判明した。一方、当初の計画にはないものの水平AlGaN/空気DBRを作製し電子顕微鏡による構造解析を行った。 3.等方的エッチングを活用した中空電流注入構造の作製技術を確立:平成24年度は、本研究の主要な開発目標のひとつである中空構造の試作を行った。GaN層の上に厚さ数nmのごく薄いAlGaN層を設け、微細な(直径20 nm程度)開口列を作る。等方エッチングで開口列周辺の下地GaN層のみを選択的に除去した後、引き続きGaN層を成長することで、中空構造の作製が可能であることを実証した。 4.GaN/空気DBRを備えた高Q値GaN共振器を作製、光励起による励起子ポラリトンを観測:上記水平AlGaN/空気DBR共振器と、AlGaN自立薄膜転写誘電体多層膜DBR共振器について顕微フォトルミネッセンス(PL)測定で光学特性を評価した。平成24年度本課題で購入したステージを用いたポラリトンレーザ用光学測定システムの構築を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画ではGaN/空気周期構造を垂直に配列し、ポラリトンレーザとして動作させる予定であった。しかし、垂直構造では大面積化に制約があることを踏まえ、平成25年度はQ値が高く取れる一方で素子加工の容易な水平型・AlGaN自立薄膜転写誘電体多層膜ポラリトンレーザの実現に向けた基本構造の試作と評価を行う。ここに用いられるAlGaN高品質自立薄膜は、本研究の成果であるGaN熱分解加工を用いてはじめて実現できる新規な窒化物半導体ナノ構造であり、上記の計画変更は、新しい作製技術の開発に基づく新型素子実現に向けた要素技術の確立という目的に合致した、妥当な軌道修正であると考える。誘電体多層膜共振器は電流注入には必ずしも好適ではないが、一方で励起子ポラリトンの形成に関する実験は比較的容易に遂行できると期待される。水平型誘電体多層膜共振器に電流注入を行う場合、p型層・n型層双方に透明電極を形成する必要がある。ここでITOの利用を検討する。ITOの短波長可視光透過率は、スパッタ製膜直後にはじゅうぶん高くないものの製膜後にアニールを施すことで大幅に改善することを過去の経験から知っている。このように、当初は比較的なじみのある素材を用いて素子の試作を行う予定である。 一方、垂直GaN壁アレイベースの素子作製基本技術の開発は平行して継続する予定である。電流注入型素子に向いている構造の特性を活かし、中空構造ベースのダイオードの試作を含む関連構造の作製と評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は当初予定していた国際会議への投稿を見送ったこともあり、旅費の支出額が交付申請段階での計画を下回った。一方で、年度途中でAlGaN自立薄膜転写誘電体多層膜共振器の作製を始めた関係上、その作製に必要な誘電体多層膜の製膜やマニピュレーションを容易に行うための超長焦点高倍率対物レンズなどを購入したため、物品費の支出額が交付申請段階での計画を上回っている。その他として計上していた英文校正費用も発生しなかったため、次年度使用額が生じたものである。平成25年度は、交付申請段階での計画に加え、水平型自立薄膜転写微小共振器の作製に必要な消耗品なども購入する予定である。また、励起子ポラリトン観測用の測定システム構築に必要となる光学部品なども購入する予定である。
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