研究課題
平成25年度は、色素ドープ液晶中における高効率な空間光ソリトンの形成を目指し、DR1と呼ばれるアゾ色素を少量添加した低分子ネマチック液晶5CB中での光伝搬特性について検討を行った。具体的には、ホモジニアス配向のスラブ導波路型平行平板液晶セルを作製し、対物レンズを介して波長633 nmの直線偏光のレーザー光を結合させ、顕微鏡を用いてセル内部での光伝搬を観察した。その結果、入射光の偏光方位と液晶の配向が直交する場合において、光強度が高くなるにつれて回折による広がりが緩和されることを確かめた。即ち、DR1ドープ液晶においてソリトン形成の可能性が示された。しかしながら、非線形性の起源を種々の条件下における観察結果から検討したところ、前年度までに検討していたアントラキノン系の色素をドープした液晶の場合と同様、光熱効果によって自己収束の生じたことが推察され、当初期待していたようなアゾベンゼンの光異性化とそれに伴う液晶の分子配向変化に起因する新規的な現象は観察できなかった。一方で、光強度がある程度(実験上は10 mW程度)大きくなると、光熱効果によってビームの中心付近でネマチック相から等方相への転移が生じ、両相間の屈折率差に起因して光が閉じ込められて伝搬する場合のあることが今回新たに確認された。この現象も光熱効果によるものと思われるが、ネマチック相における屈折率分布ではなく、相の違いによる光を閉じ込めたという報告は調べた限りこれまでになされていない。自己形成導波路などにも展開可能な応用上有意な現象であると考えている。光異性化と光伝搬の関係について知見を得るべく、高分子薄膜中におけるアゾベンゼンやベンジリデンアニリンの光異性化反応についても検討を行ったが、実際にソリトン形成へ繋げるまでには至らなかった。
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