研究課題/領域番号 |
24760276
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 雅光 名古屋大学, PhD登龍門推進室(工), 特任講師 (10377864)
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キーワード | 超伝導 / 集積回路 / 単一磁束量子回路 / SFQ回路 / メモリ / 低消費電力 / 高エネルギ効率 |
研究概要 |
本研究では、高速低消費電力を特徴とする単一磁束量子(RSFQ)回路による、シフトレジスタ型メモリの大容量化と低消費電力化を目指している。シフトレジスタ型メモリは、SFQ回路と同程度の数十GHz以上の動作が見込め、一次キャッシュメモリへの応用が有望である。一方、集積密度や消費電力の点で課題があるが、昨年度、単純で規則的なレイアウトによる高集積性、バイアス電流の低減による低消費電力性を特徴とした新たな回路を提案し、これらの課題の改善に対する方針を得た。 平成25年度は、回路の一層の低消費電力化、及び低消費電力化した際に懸念される雑音の増加に対する解決策に関する検討実験を進め、知見をまとめた。また、シフトレジスタ型メモリと最も親和性の高い、ビットシリアルまたはビットスライス処理によるRSFQマイクロプロセッサとの接続について具体的に回路構成の検討を行った。 低消費電力化については、従来の定電流駆動ではなく、一定の低い電圧により回路を駆動する、LV-RSFQ回路技術を確立した。動作速度と消費エネルギのトレードオフ関係を明らかにしたことで最適な電源電圧範囲が分かった。また、低電圧時における長距離配線の駆動技術の開発、ビットエラーレートの調査、回路パラメータの再検討などを行ったことで、メモリのような規則正しい構造をもつ回路に限らず、LV-RSFQ回路を一般のランダムロジックに適用することが可能となった。雑音への対策としては、ジョセフソン接合のスイッチング動作安定化のために挿入しているシャント抵抗で発生する雑音の回路への影響を低減するための手法を検討してきたが、数回の回路試作を行い、その効果の定量的評価を行った。 次の段階として、マイクロプロセッサとの接続を念頭に、メモリシステム全体の回路構成の検討を進めている。メモリセル以外の要素回路の設計を具体的に行い、評価回路の試作を終えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、従来のRSFQシフトレジスタに比べ、1/10から1/100に消費電力を低減化することを達成目標の一つとなっている。今年度までの検討結果で、電源電圧を従来の1/10程度に設定した場合、動作速度をそれほど下げることなくRSFQ回路の消費電力を1桁下げることが可能であることが明らかとなったことにより、本研究での提案回路による素子数の低減や、ジョセフソン接合の臨界電流値の低減を組み合わせることにより目標達成に目処がついたと思っている。 さらに、低電圧駆動時のRSFQ回路の動作解析や、能動素子の駆動能力の低下への対策の検討を詳細に進めたことで、LV-RSFQ回路をメモリのような規則的な構造をもつ回路以外にも適用可能な回路技術として確立することができた意義は大きい。LV-RSFQ回路は、長距離配線や、非同期回路を混在させた回路の実現が可能であり、また、従来のRSFQ回路の設計資産を活用できることから、複雑な大規模回路にもっとも適したエネルギ高効率RSFQ回路技術であると言える。実際に、今年度LV-RSFQ回路によるマイクプロセッサの要素回路及びプロトタイプを試作し、高速動作実証に成功している。その成果は論文及び国際会議で発表を行った。マイクロプロセッサについては、以前の設計に比べ、14倍エネルギ効率を改善することができ、来年度の国際会議において招待講演の依頼を受けている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は最終年度となるため、これまでに提案したメモリセル及び低消費電力化技術を集結して、メモリシステム全体の設計を行う。今年度、メモリシステムの回路構成について検討を行い、一部の評価回路の試作を終えたので、年度の前半ではその評価を行う。その結果を受け、年度の後半では、1キロから数キロビットの容量をもつメモリの試作と動作実証を進める。 回路の試作を依頼している、産業技術総合研究所のクリーンルーム(CRAVITY)を利用している他の研究機関との情報共有を狙い、本科研費の支援を得て超伝導集積回路の評価結果データベースシステムを主体となって運営してきた。引き続きデータの蓄積を進め、回路の歩留まり向上などを設計指針を得るために活用する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画当初の予定に比べ、価格変動などで物品費等が多少抑えられたのが主な理由となる。本研究で得られた成果を含む内容について、次年度に開催される国際会議での招待講演の依頼を受けたため、平成26年度に必要な必要旅費の増加を見込んで、今年度の余剰分は繰り越すこととした。 平成26年4月末にトルコで開催される国際会議4th International Conference on Superconductivity and Magnetism (ICSM 2014)で成果報告を行うための旅費として支出する予定である。
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