研究課題/領域番号 |
24760299
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
栗林 稔 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50346235)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スペクトル拡散 / OFDM通信 / 結託耐性符号 / 平均化攻撃 |
研究概要 |
ディジタルコンテンツの不正コピーから,不正者を特定するために,利用者ごとに識別情報を電子透かし技術を用いて密かにコンテンツに埋め込むことを想定し,二種類の研究を行なってきた.従来の理論的な電子指紋技術の枠を超えて,実環境を想定した攻撃モデルにおいて,実用的な手法の提案と評価を行なった. 研究の一つは,識別情報を二進系列の結託耐性符号で符号化して,コンテンツに埋め込むための手法の確立である.研究代表者が以前から手掛けてきたスペクトル拡散技術に基づく電子透かし技術が基礎となっており,通信工学の分野で使われるOFDM通信の技術を取り入れた内容となっている.この研究においては,コンテンツの流通過程を想定して,圧縮に対しては特に高い耐性を有すると共に,結託攻撃など各種攻撃による影響を白色ガウス雑音で近似できるような方式を提案した.その結果として,結託耐性符号の研究において従来想定されてきたマーキング仮定とは異なり,平均化攻撃と白色ガウス雑音付加を攻撃モデルとして扱うことができるようになった. この攻撃モデルの仮定の下,もう一つの研究として結託耐性符号の検出器の設計を見直し,実環境に応じて雑音の分散値の推定と最適な検出器を設計するための解析を行なってきた.従来研究において考えられてきたマーキング仮定下での攻撃とは異なるため,その理論的な解析には符号化時のパラメータも必要となってくる.その関連性を調べると共に,なるべくシンプルな構造の検出器となるように工夫しながら,検出に要する計算量の削減も同時に行なってきた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実施計画では,電子指紋技術において結託耐性に対するアプローチとして,スペクトル拡散技術を用いる方式と結託耐性符号を用いる方式の二種類において並列で研究を進めることを想定していた.実際に,並列して個々の研究内容を進めることに成功しており,その成果は国際会議や国内の研究会などにおいて発表するに至っている. 結託耐性符号の研究においては,当初は理論的に新しい攻撃モデルと雑音付加モデルを想定して,不正者の検出をどのように行うかを解析していた.ところが,スペクトル拡散技術に基づく電子透かし技術の進展に伴って,結託耐性符号の符号語を実際にコンテンツに埋め込む手法を考案できたため,さらに踏み込んで,静止画像ではあるがコンテンツを用いて実環境下でシミュレーションを行うことができた. つまり並列して行なっていた研究ではあったが,その進展に伴って2つの技術をうまく融合させて技術的な問題を克服できる方向に向かいつつある点が当初の計画以上に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
スペクトル拡散技術に基づく電子透かし技術において,これまではディジタル変調技術である二位相偏移変調(BPSK)を考えてきたが,コンテンツに起因する干渉成分が性能低下の問題として課題であった.解決方法としては前処理として干渉成分除去処理を行うことで,検出時にその干渉成分の影響を最小限に抑える手法がある.ただし,この干渉成分除去処理はコンテンツの特徴と密接な関係があり,どのコンテンツにおいても同じ効果が期待できるわけではなく,場合によっては著しい劣化が生じることもある.別の手法として量子化法を用いて結託耐性符号を埋め込む方法が考えられる.しかし現在のところ,最適な検出器の設計が極めて難しい欠点もある. そこで,今後の研究として,上記二種類の方式において課題を克服できるように問題点を見直したり,符号の生成過程から検出過程までの一貫した解析を行うなどして行きたいと考えている.また,プロトタイプ作成に向けて,準備をして行きたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の後半に得られた成果の一部は,現在国際会議や国内の研究会などで発表することを予定しており,その旅費として研究費を使用する予定である.また,プロトタイプ作成のために,必要なソフトウエアの購入と,動作環境の確認も含めて複数のハードウエアを試験したい.例えば,ノートPCやタブレット端末などを想定している.また,分散コンピューティング環境の構築を含めて複数のCPUコアを搭載したPCの購入も考えている.
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