研究課題/領域番号 |
24760313
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
山田 博信 山形大学, 理工学研究科, 助教 (50400411)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / 検出器 / ジョセフソン接合 / スロットダイポールアンテナ / 高温超伝導体 |
研究概要 |
平成24年度は,ブリッジ幅5 μmのジョセフソン接合(JJ)と設計周波数220 GHzのスロットダイポールアンテナ(SDA)を集積させて検出器を作製し,高周波照射時の電流‐電圧(I-V)特性を測定した。 検出器は以下のように作製した。始めに,Au(50 nm)/YBa2Cu3O7-δ(YBCO,100 nm)/双結晶MgO(0.5 mm)の薄膜を用いて幅5 μmのJJマイクロブリッジと電極を作製した。次に,絶縁性のベンゾシクロブテン(BCB)層を作製した後,AuでSDAを作製した。それから,ブリッジ幅を2 μm程度まで段階的に細く加工していき,接合の改善を行った。作製した検出器は冷凍機により30 K程度まで冷却し,その後180-240 GHzの高周波を照射してI-V特性を測定した。 高周波を照射するとI-V特性にJJ特有のステップ状の変化(シャピロステップ)が確認され,さらにこのとき高周波電力を増加させていくと各ステップの電流値がベッセル関数的変化(電圧0 Vのステップの場合は減少→0 mA→増加の変化が繰り返される)が確認された。また,この変化はブリッジ幅を小さくするにつれて顕著になっていくのが確認できた。これらのことから,作製した検出器が動作していることが確認できた。 次に,測定で得られた各ステップの電流値と,接合の等価回路モデルを用いた計算結果から得られた電流値を比較することで,JJとアンテナの結合効率を検討した。180-240 GHz程度の周波数帯域において結合効率は比較的平坦な変化をしており,広帯域を示唆する結果が得られた。結合効率はブリッジ幅を小さくするにつれて大きくなっていき,ブリッジ幅2 μm,周波数193 GHzのときに最大値約-19 dBの結果が得られた。この値から検出器の総合感度を求めると630 V/Wとなり,高感度を示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度当初の計画においては,SDAとJJをマイクロストリップ的に結合した(SDA/MS/JJ型)高温超伝導体テラヘルツ(THz)波検出器について,次の3つの課題を設定した。 1つ目はSDAの広帯域化および低インピーダンス化で,アンテナのインピーダンスを小さくすることによりジョセフソン接合のインピーダンス(常伝導抵抗)に近づけてインピーダンス不整合損を低減させると同時に,広帯域化も検討するとした。これについては,SDAのモデルを作製して電磁界解析シミュレーションを行うことにより低抵抗で周波数に対する変化も小さいアンテナを設計することができたので,この目的は達成できたと判断する。 2つ目はジョセフソン接合の高常伝導抵抗化で,常伝導抵抗をアンテナのインピーダンスに近づけることによりインピーダンス不整合損を低減させるとした。これについては,JJの作製時にブリッジ幅を細くするとともに,レーザーエッチングを用いてさらに細く加工することで抵抗を大きくすることができたので,この目的は達成できたと判断する。 3つ目は SDA/MS/JJ型高温超伝導体THz波検出器の作製および評価で,実際に集積することによる影響を検討することとした。これについては,設計周波数220 GHzのSDAを集積した検出器を実際に作製し,その特性を測定している。比較的高帯域で感度も良い検出器を作製することができているが,集積による影響を検討するにはさらに研究を進める必要があると考えているので,現時点でこの目的は概ね達成できたと判断する。 以上のことから,現在までの達成度を(2)おおむね順調に進展している,と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に得られた結果を基にして,平成25年度は以下の3つの課題を設定する。 1つ目は設計周波数900 GHzのSDA/MS/JJ型検出器の試作で,平成24年度に作製した設計周波数220 GHzの検出器を基にして,設計周波数900 GHzの検出器を作製する。具体的には,まず,双結晶MgO基板上にYBCO薄膜を作製し,フォトリソグラフィとエッチングにより,ジョセフソン接合を作製する。その後,ジョセフソン接合の上に誘電体の感光性BCB樹脂の層を作製してから,さらにその上にAu層を作製し,フォトリソグラフィとエッチングによりアンテナを作製する。 2つ目は設計周波数900 GHzのSDA/MS/JJ型検出器の評価で,作製した設計周波数900 GHzのSDA/MS/JJ型検出器について,電流-電圧特性,周波数特性などの測定を行う。高周波の発生には,後進波発振器(0.7 THz~1.1 THz)を用いる。測定の際には検出器を30 K程度まで冷却して行うが,温度変化による特性の変化についても検討する。 3つ目はSDA/MS/JJ型検出器の再検討で,平成24年度に作製した設計周波数220 GHzの検出器と平成25年度に作製する設計周波数900 GHzの検出器の特性の評価結果から得られた知見をアンテナと接合のそれぞれにフィードバックし,SDA/MS/JJ型検出器の改善を行う。その際,検出器のモデルを用いた電磁界解析シミュレーションも行い,SDAとJJの集積による検出器への影響についても検討する。 平成25年度は設計周波数900 GHzの検出器の作製が主となるが,これがうまくいかない場合には,周波数の高さに起因するアンテナの小ささが原因と考えられるので,設計周波数を750 GHz程度まで小さくして研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費として40万円を計上する。内訳は,検出器作製に用いるMgO基板,検出器作製プロセスで必要となるエッチング用薬品(フォトレジスト,現像液など)や洗浄用薬品(エタノール,アセトンなど),マスクや手袋などの実験を遂行する上で不可欠な消耗品等を予定している。 研究成果の発表および情報収集のための旅費として50万円を計上する。内訳は,国内学会3回(2013年秋季応用物理学会(京都府京田辺市),2013年秋季低温工学・超電導学会(愛知県名古屋市),2014年春季応用物理学会(神奈川県相模原市)),国内開催の国際会議1回(International Symposium on Superconductivity 2013(東京都江戸川区)),海外開催の国際会議1回(European Conference on Applied Superconductivity 2013(イタリア・ジェノバ))を予定している。 その他の費用として20万円を計上する。内訳は,先に記述した国内学会,国内および国外開催の国際会議の参加費(国内学会3回,国内開催の国際会議1回,海外開催の国際会議1回)や,成果発表のための論文の校正費用(2回)などを予定している。 なお,人件費・謝金については計上しない予定である。
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