本研究では、走査プローブ顕微鏡の機能により表面形状を取得するとともに、高透磁率のプローブによって、試料の局所的なNMR信号をSQUIDまで伝達・検出することをコンセプトとした走査SQUID-NMR顕微鏡システムの開発を行った。前年度、NMR信号を検出するために必要と考えられる磁場感度に対して、現状の性能が大きく不足していることが明らかとなっていた。その原因の一つがプローブとSQUID間の磁気結合が悪いことにあり、磁束量換算にして1/1000以下しかSQUIDに伝達されていなかったことが判明した。rf-SQUIDを動作させるために、従来、SQUIDとは別基板の基板型レゾネータをフリップチップ配置して使用していたため磁束伝達が悪化しており、このレゾネータを省略することが最善策だと判断した。そこで、レゾネータとSQUIDとが一枚の基板に集積されたレゾネータ一体型rf-SQUIDに注目し、シミュレーションと実験の両方から、プローブとSQUIDの磁気結合も考慮して開発を進め、最終的に動作する新型rf-SQUIDの作製に成功した。まだ十分とは言えないが、感度が四倍以上向上した。また、NMR信号の検出にSQUIDを用いるため、プロトンの共鳴周波数を100 kHz以下に設定できるよう装置内部を十分に低磁場環境に保ちつつ、磁場印加ができるように磁気シールドを改善することが重要であった。試料交換および設置が容易でありながら、磁気性能を満たす分割式のシールドを設計し、低磁場環境を実現した。プローブ-試料間距離制御においては、真空環境で音叉型水晶振動子を用いたAFMの適用を実現しているが、時間を要するNMR信号の検出において、従来の構造は安定性が悪いという問題があった。将来、大気中環境でも動作させることも想定して、AFMユニットと呼んでいる部分の改良を進め、安定したプローブ-試料間距離制御を実現した。
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