生物は,その身体が持つ膨大な自由度を巧みに協調させることにより,環境適応的な振る舞いを示す.この現象を理解する上で,力学系に基づいて自律分散制御則を設計し,その妥当性をロボットを用いて検証する構成論的アプローチは有効な方法論となる.しかるにこのアプローチに基づく従来のロボットが示す環境適応性は,実際の生物に比肩し得るレベルには達していない.本研究では,この理由が「身体の可変形性」に関する考察が欠落しているためであるという作業仮説に基づき,一次元の単純な身体構造を有するヘビをモデル生物として採り上げ,その身体の可変形性に由来する豊富な感覚情報から生み出される環境適応的な振る舞いの発現機序解明を目的とした. まず,ヘビのロコモーション様式を理解するため,行動実験を行った.研究室内でヘビを飼育し,フォースプレート上でヘビをロコモーションさせることで,ヘビが地面を押しつける力を計測するとともに,撮影した動画を解析して体幹がなす曲線の曲率や身体表面の歪みの時空間分布に関する定量的なデータを取得した. 次に,行動実験結果をもとにヘビのロコモーションの数理モデル化を行った.モデル化に際し,身体の可変形性を考慮に入れ,運動に伴って生み出される身体の局所的な歪みに関する感覚情報を制御系にフィードバックする自律分散制御則を設計した.モデルの妥当性はシミュレーションにより検証した.さらには,柔軟な身体構造を有するロボットを設計・製作し,モデルの実世界での妥当性を検証した.提案した制御則をロボットに実装することで,ロボットはランダムに配置された杭を活用して推進することが確認できた. さらに,身体の接地箇所の時空間的変化の効果もモデルに取り込むことで,蛇行推進のみならずsidewindingやconcertina locomotionなどの多様な振る舞いをシミュレーションで再現することにも成功した.
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