研究課題/領域番号 |
24760341
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山本 直樹 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (40513289)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 制御理論 / 量子情報 |
研究実績の概要 |
前年度は、一般の線形量子系における「デコヒーレンスフリー部分系(DFS)」の数理的特徴付けを与えることに成功した。3年目である2014年度は、この成果に基づいて主に次の成果を得た:(1) 線形DFS理論に基づく、量子メモリの一般的設計法を構築することに成功した。(2)フィードバック制御による線形DFSの一般的設計論を与えた。詳細は次の通りである。(1) DFSは外界からの量子ノイズ(デコヒーレンス)の影響を受けない理想的な系として機能し、従って、状態保持のためのデバイスすなわち量子メモリとして利用することが可能である。本研究では、このメモリDFSへの状態の書き込み・保持・読み出しを効率よく実行するためのプロトコルを一般の線形量子系で明らかにした。鍵となるアイデアはシステム制御理論で開発された「ゼロダイナミクス」および「可制御・可観測」の概念であり、これらを上手く組み合わせることで、プロトコルを陽に記述することが出来る。成果は New Journal of Physics で発表した。(2) 対象系がDFSを有していないとき、それを例えば量子メモリとして機能させるために、外的な操作あるいは構造の改変により系にDFSを内蔵させることが重要である。本研究では、一般の線形系に「測定を介さない」フィードバックを組み込むことで、それがDFSを内蔵するようにシステムの構造改変を行うことが可能であることを示した。他方、「測定を介する」フィードバックでは、そのようなDFSを生成させることは不可能であるという定理を証明することに成功した。成果は Physical Review X で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
3年目の当初計画は「フィードバックによるDFSの生成法」を主な課題として設定しており、従って上記成果(2)はこの目的と大いに合致するものである。この目的は測定によるフィードバックでは達成不可能であり、他方、測定を用いないフィードバックを用いると理論的にはつねに可能である、という結果は予想外の事実であり、当初の計画を超えて有用な結果であると言える。一方、DFSの量子メモリへの応用法については当初の研究計画では挙げていなかったが、2年目から引き続くこの研究は予想以上の進展を見せた。両課題ともシステム制御理論に基づく見通しの良い理論体系の構築に成功しており、課題の当初目的の達成度は十分であると主張できるものである。
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今後の研究の推進方策 |
DFSは、量子メモリだけではなく本来、様々な応用を有している。とくに、近年DFSの精密測定への応用が提示されている(例えば、U. Dorner, New J. Physics, 14, 043011, 2012)。本研究で得られた線形DFSの一般理論も、同じく精密測定へ応用することが出来る。事実、2014年度において部分的成果が得られており、これをさらに推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年3月のオーストラリアへの出張を、当初予定の10日間を5日間に短縮したため、滞在費用に残余が生じた。短縮理由は次の通りである:訪問先であるニューサウスウェールズ大学の研究者が2月下旬から3月上旬にかけて出張を行うことになり、そのため、双方にとって都合の良い期間が5日間となった。
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次年度使用額の使用計画 |
2014年11月開催の量子情報技術シンポジウム(於仙台)で発表を予定していた研究があるが、進展に遅延が生じたため発表できなかった。その後進展があり成果発表可能となったため、2015年に開催される同学会にて発表を行う。未使用額は、この学会への出張費として使用する。
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