研究課題/領域番号 |
24760347
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高谷 哲 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40554209)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | コンクリート / 鉄筋腐食 / 腐食生成物 / ひび割れ |
研究概要 |
鉄筋腐食はコンクリート構造物が抱える深刻な問題のひとつであり,これまでにも数多くの研究者がひび割れ発生腐食量やひび割れ幅と腐食量の関係などについて研究を行っている.しかし,様々な値が報告されており,かぶりや鉄筋径などについて体系的に整理されていないのが現状である.その原因として,環境によって腐食生成物の種類が異なることが考えられる.腐食生成物が異なれば,密度や体積膨張倍率なども異なると考えられるが,腐食生成物のそのものに着目した研究はほとんどない.そこで,昨年度の研究においては,様々な環境下においてコンクリート中の鉄筋に生じる腐食生成物を整理し,各腐食生成物の生成プロセスについて考察を行った.また,各腐食生成物の体積膨張倍率の推定を行い,腐食生成物の違いがひび割れ発生腐食量に与える影響について検討を行った. その結果,コンクリート中は高アルカリ環境下であるため,γ-FeOOHやβ-FeOOHは生成しにくいが,ひび割れが大きくなると外部環境の影響を受けて生成するようになることや,電食試験や促進試験などのように腐食速度が大きく,十分な水および塩化物イオンが存在する場合にはCaFeClO2が生成することが分かった.通常,腐食生成物の体積膨張倍率は2~3倍と言われているが,CaFeClO2の体積膨張倍率は6.9倍と非常に大きいため,電食試験や促進試験を行った場合には暴露試験などに比べて1/3倍程度の腐食量でひび割れが生じることが明らかとなった. これらの成果は,土木学会論文集に投稿し,既に掲載が決定している.また,以上の成果を踏まえた上で,腐食生成物の違いがひび割れ幅と腐食量の関係に与える影響についても検討を始めており,成果の一部がコンクリート工学年次論文報告集に掲載されることが決まっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は,ひび割れ幅と腐食量の関係を明らかにし,ひび割れ幅から腐食量を推定するモデルを作ることである.しかし,そのためには,様々な環境下で生じる腐食生成物について整理し,腐食生成物の違いがひび割れ幅と腐食量の関係に与える影響について検討する必要がある.昨年度の研究の成果として,コンクリート中において鋼材に生じる腐食生成物についてはある程度整理することができ,腐食生成物の違いがひび割れ発生腐食量に与える影響を明らかにすることができたと考えられる.しかし,実構造物において生じる腐食生成物を推定するためには,様々な環境下に置かれている実構造物中の鋼材の腐食生成物を分析する必要がある.また,現在のところ,ひび割れ幅と腐食量の関係についても検討を始めているが,かぶりや鉄筋径といった既往の研究でも影響要因に挙げられているものと併せて検討する必要があり,さらに,実際に現場でひび割れ幅から推定した腐食量と実際の腐食量の相違についても検討する必要があると考えられる. まだ検討課題は残っているものの,初年度に予定していた以上の成果は得られており,残された検討課題についてもある程度方針が立っているため,研究の達成度は,「おおむね順調に進んでいる」と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究成果を踏まえ,本年度は次の項目について検討することとする. (1)腐食生成物の違いがひび割れ幅と腐食量の関係に与える影響 かぶりや鉄筋径,ひび割れ幅を実験要因として電食試験を行う.かぶりは10,20,30mm,鉄筋径は13,19,29mm,目標ひび割れ幅は0.1,0.3,0.5,0.7,0.9mmとする.電食試験終了後に腐食生成物の分析および腐食量の測定を行う.電食試験を行った場合,体積膨張倍率の大きい塩化酸化鉄(III)カルシウムが生成することが確認されているが,この腐食生成物が生じるためにはカルシウムイオンと塩化物イオンが必要であると考えられ,塩化物イオンが存在しない環境下で電食試験を行えば,塩化酸化鉄(III)カルシウムは生成しないと考えられる.実構造物では塩化酸化鉄(III)カルシウムが生成することはほとんどないと考えられるため,塩化物イオンの存在しない環境下で電食試験を行うことで,実構造物に適用可能な結果が得られると考えられる.実験結果から,かぶりや鉄筋径,ひび割れ幅をパラメータとした腐食量の推定式の提案を目指すこととする. (2)実構造物における検討 実構造物から採取した腐食生成物の分析を行い,これまで考えている腐食生成物の生成プロセスの妥当性を検討するとともに,実環境において生じる腐食生成物を推定するための分類表の作成を試みる.また,実構造物においてひび割れ幅から腐食量の推定を行い,(1)で提案したモデルの妥当性を検討することとする.
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次年度の研究費の使用計画 |
当研究室では直流電源装置を保有しているが,数台が更新時期に差し掛かっているため,設備備品費として直流電源装置2台を購入する予定である.また,供試体作製資材および解体資材を消耗品費として購入する予定である.さらに,当研究室ではX線回折装置を保有していないため,X線回折分析を外部機関に依頼する費用をその他の経費として使用する予定にしている. 研究内容に関する成果発表(講演会,シンポジウム等への出席)および実構造物の調査にかかる費用を旅費(交通費,日当,宿泊費)としては使用する予定にしている.さらに,コンクリート供試体の作製,解体に当たり,延べ約20日×5名の大学院生の実験補助を依頼することから,謝金を支払う予定にしている.また,成果論文の投稿料をその他の経費として使用する予定にしている.
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